商談分析AIとは?商談解析で受注と失注の差を見つける指標と手順【2026年版】
商談分析・営業AI88 min read

商談分析AIとは?商談解析で受注と失注の差を見つける指標と手順【2026年版】

著者: Terasu 編集部

商談分析AI(AI商談分析・商談解析)とは、商談の録音・録画を音声認識AIで文字起こしし、話者比率・質問数・キーワード・トーク構造などを定量化することで、受注/失注を分けた要因を可視化し、「売れる営業の型」を再現可能にする手法である。担当者の記憶や主観に頼った日報では捉えられない実際の会話データを蓄積し、トップ営業の暗黙知を組織の形式知へ変換するために用いる。

商談分析AIで録音データから受注と失注の差を見つけるイメージ

「受注できた商談と失注した商談で、何が違ったのか説明できない」「トップ営業の動きは見えるが、なぜ売れるのかが言語化できず横展開できない」——多くの営業組織がこの壁に突き当たります。原因はシンプルで、商談という最も重要な現場が、担当者本人の記憶の中にしか残っていないからです。

商談分析AIは、この「ブラックボックス化した商談」を録音データから定量的に解きほぐし、受注/失注を分ける要因を数値で可視化します。本記事では、商談分析の定義と仕組みから、何を測れば勝敗が見えるのか(指標の体系)、受注商談と失注商談を比較して勝ちパターンを抽出する具体的な3ステップ、そして分析を次の商談に反映する運用循環までを、Gongが公開している大規模調査の数値を一次ページで確かめながら解説します。後半では、国内外の商談解析ツール6つの特徴を公式情報で整理し、録音の同意を個人情報保護法の条文に沿って確認します。ツールを並べて終わりにせず、自社で分析を回して成果につなげるための設計図として使ってください。

この記事の要点(TL;DR)
① 商談分析AIとは、録音→文字起こし→定量分析で受注/失注の要因を可視化し、勝ちパターンを再現する手法
② 測るべき指標は「トーク比率・顧客発話率・質問数・オープン質問・会話スピード・沈黙・キーワード・next step設定率」など。Gongの2025年の分析では、受注商談の営業の発話は平均57%、失注商談は62%だった
③ 勝ちパターン抽出は「受注↔失注を同一指標で比較→共通因子の特定→スクリプト/チェックリスト化」の3ステップ
④ 分析は「録音→分析→コーチング→改善→再録音」の循環にして初めて成果になる。分析しっぱなしでは変わらない
⑤ 録音・提案資料・資料の閲覧記録を案件ごとに1か所へ集めると、会話(商談中)と行動(商談後)をつなげて振り返れる

状況別の読み分け早見表

商談分析AIを調べている理由によって、先に読むべきところが変わります。自分の状況に近い行から読み進めてください。

当てはまる状況次に読むセクション・アクション
商談分析・商談解析・会話解析の違いがまだあいまい「商談分析AIとは」の用語整理から読む
録音はしているが、何を見ればよいか分からない「測る指標」の指標マップとマトリクスで、まず4指標に絞る
トップ営業のやり方をチームに広げたい「勝ちパターンを抽出する3ステップ」とチェックリストを使う
ツールの比較・選定を任された「ツールの選び方」の7観点と6ツールの早見表で候補を絞る
顧客に録音をどう断ればよいか迷っている「対面商談・録音の同意・セキュリティの実務」を先に読む
予算がなく、まず小さく試したい「商談分析の始め方|スモールスタート4ステップ」から始める

商談分析AIとは|録音から受注/失注の要因を可視化する手法

商談分析AIとは、営業担当者と顧客の商談を録音・録画し、音声認識AIで文字起こし・構造化したうえで、会話の内容を定量・定性の両面から分析する手法です。目的は、成約した商談と失注した商談の違いを客観的なデータから明らかにし、「なぜ売れたのか/売れなかったのか」を再現可能な形で言語化することにあります。

商談分析の仕組み|4つの段階

商談分析AIは、おおむね次の4段階で進みます。この流れ自体は、ツールを使う場合も手動で行う場合も共通です。

  1. 記録(可視化):オンライン会議(Zoom・Google Meet・Microsoft Teams など)や電話、対面商談を録音・録画し、客観的な一次情報として残す。営業担当者の記憶に頼った日報では正確な分析ができないため、実際の会話データをそのまま蓄積するのが出発点です。
  2. 文字起こし・構造化:音声をAIがテキスト化し、「誰が・いつ・どんな発言をしたか」を話者分離して構造化する。固有名詞や業界用語の認識精度が、後続の分析の信頼性を左右します。
  3. 定量・定性分析:話者比率や質問数といった定量指標と、課題の引き出し方や反論処理といった定性指標の両面から会話を評価する。
  4. 型化・組織共有:分析結果を個人の気づきで終わらせず、トークスクリプトやチェックリスト、プレイブックに落とし込み、チーム全体のスキル底上げに接続する。

ツール紹介の記事の多くは「①記録」と「②文字起こし」までは丁寧に解説しますが、③で何を測るかと④をどう運用に乗せるかが薄くなりがちです。本記事はこの2点を最も厚く扱います。

商談分析・商談解析・会話解析(CI)の用語整理

検索すると「商談分析」「商談解析」「会話解析(カンバセーション・インテリジェンス/CI)」といった近い言葉が混在し、混乱しやすい領域です。実務上の使い分けを整理します。

用語主に指すものニュアンス
商談分析商談という単位で受注/失注の要因を分析すること分析の「目的・行為」を指す広い言葉
商談解析録音・録画をAIが解析して可視化すること「解析」=技術的な処理を強調。ツール文脈で多用
会話解析/CI(Conversation Intelligence)会話データからインサイトを抽出する技術領域全般海外発の概念。Gongが代表的な提供企業
議事録AI会議・商談の記録・要約・共有「記録」が主目的。分析は副次的

本記事ではこれらをほぼ同義として扱いつつ、軸足を「録音データから受注/失注の要因を読み解き、勝ちパターンを抽出する」という商談分析本来の目的に置きます。単なる記録・要約が主目的の議事録AIとの違いは、後半で詳しく扱います。

何が分かるのか|受注/失注の「分岐点」

商談分析AIで最終的に見たいのは、「同じくらいの難易度の商談で、なぜ結果が分かれたのか」です。Gongは数十万件規模の商談録音を分析し、勝率の高い会話に共通する特徴を公開してきました(出典: Gong「Mastering winning sales conversations」)。たとえば、顧客に長く話してもらえた商談ほど結果がよいこと、自社紹介を長く話しすぎると勝率が下がることなどです。ディスカバリー(課題を聞き出す段階)での質問の深さや、次のステップ(next step)を商談内で確定させたかも含め、これらは「運」や「人脈」ではなく、学習・改善できるスキルとして観測できます。

商談分析の価値は、こうした差を「感覚」ではなく「データ」で捉え、誰でも参照できる形にすることにあります。受注/失注を分ける科学的なアプローチについては、Gongのディールエクゼキューション研究の解説記事もあわせて参考にしてください。

なぜいま商談分析AIが必要なのか

商談分析という発想自体は新しくありませんが、ここ数年で「AIで自動化された商談分析」への注目が急速に高まっています。背景には、営業を取り巻く構造的な変化があります。

属人化・暗黙知のブラックボックス問題

多くの組織で、商談の良し悪しは「上司が同席したときの印象」や「担当者の自己申告」でしか評価されてきませんでした。これでは、トップ営業が無意識に行っている優れた動き——間の取り方、質問の順序、反論への切り返し——が本人の暗黙知のまま埋もれてしまい、チームに展開できません。新人が伸びるかどうかが、たまたま誰のOJTに付いたかで決まってしまう状態です。

商談分析AIは、この暗黙知を「発話量」「質問比率」「顧客発話率」「話すタイミング」といった観測可能な特徴に分解します。感覚でしか語れなかったトップ営業の動きを、定量データとして他のメンバーが再現できるようになる点が、いま導入が進む最大の理由です。

人手不足と営業生産性の最大化

採用が難しく、営業の人数を増やして売上を伸ばすやり方には限界があります。限られた人員で成果を上げるには、一人ひとりの商談の質を上げるしかありません。属人的な営業スタイルのままでは、トップ営業が異動・退職した瞬間に、そのノウハウごと失われます。

商談の音声を自動で文字起こし・要約し、CRM/SFAへ連携できれば、営業担当者は議事録作成のような付随業務から解放され、本来集中すべき顧客対応や戦略立案に時間を充てられます。後述するamptalkは、携帯電話の通話内容をSalesforceなどのSFA/CRMへ自動連携できるようにしたと2025年8月に発表しており(出典: PR TIMES/amptalk株式会社、2025年8月19日)、記録の手間を減らす機能は国内でも広がっています。商談分析は単なる効率化ではなく、限られた商談一件あたりの「勝率」を底上げする投資として位置づけられます。

買い手の情報武装と「伴走者」化

デジタル化の進展により、いまの買い手は商談前に膨大な情報を自分で集められるようになりました。その結果、営業担当者には単なる説明役ではなく、顧客の課題解決に伴走する役割が求められています。一方的に話す営業ではなく、相手の真の課題を引き出し、的確に応答できているか——これはまさに商談分析が可視化できる領域です。

買い手が賢くなったということは、裏を返せば「製品説明がうまいだけの営業」では差がつかなくなったということでもあります。差を生むのは、相手の状況を深く理解し、相手にとって本当に意味のある論点を提示できるかどうかです。こうした"質の高い商談"は、これまで一部のトップ営業の感覚に依存していました。商談分析は、その感覚を指標と会話データに分解し、組織の誰もが再現できる形に変えます。買い手の変化が進むほど、商談という現場を見える化し、勝ち筋を組織で共有する重要性は増していきます。

録音・文字起こしが「当たり前」になった

もう一つの変化は、録音と文字起こしのハードルが下がったことです。ZoomやMicrosoft Teams、Google Meetでの商談が定着し、録画や文字起こしは会議ツールの標準機能として使えるようになりました。データを集めるコストが下がったいま、差がつくのは「集めたデータから何を読み取り、どう行動を変えるか」です。これが、記録の先にある分析への関心が高まっている理由です。

商談分析で「測る指標」の体系|何を測れば勝敗が見えるか

ここが本記事の中核です。商談分析を「なんとなく録音を聞き返す」で終わらせないために、何を測ると受注/失注が見えるのかを体系的に整理します。指標は大きく「定量指標」と「定性指標」に分かれ、さらに次の4つのまとまりで捉えると、どこから手を付けるかが決めやすくなります。

商談分析の指標を、話し方のバランス(トーク比率・トーク比率の一貫性・顧客発話率・最長モノローグ・会話スピード・沈黙の許容)、質問の量と質、前進のサイン、会話の質(定性)の4つのまとまりに分けた指標マップ
4つのまとまりのうち、左の3つは定量指標、右端は定性指標。受注商談と失注商談を同じ指標で並べ、差が最も大きいものから改善する。

上の図のとおり、定量指標は「話し方のバランス」「質問の量と質」「前進のサイン」の3つ、定性指標は「会話の質」にまとまります。以下で、それぞれの指標が何を示し、どう測るかを順に見ていきます。

定量指標|数値で捉える会話の構造

定量指標は、会話の「構造」を数値で捉えるものです。AIが最も得意とする領域で、ツールを使えば自動で算出されます。以下に主要な指標を、Gongの調査で示された傾向とともにマトリクスで整理します。数値の出典は表の下で一つずつ示します。

まとまり指標何を示すか傾向(参考)測り方改善アクション
話し方のバランストーク比率(話す:聴く)営業と顧客の発話量バランスGongの初期分析では高業績の商談が「話す43:聴く57」。2025年の分析(10分以上の32.6万件)では平均が話す60%、受注商談は57%、失注商談は62%話者分離後の発話秒数比話しすぎを抑え、問いかけで顧客に話させる
話し方のバランストーク比率の一貫性勝敗に左右されない安定度高業績者は勝っても負けても比率が同じ。低業績者は受注54%→失注64%へ10ポイント変動(Gong・2025年)受注/失注別にトーク比率を比較「失注しそうな商談ほど話しすぎる」癖を矯正
話し方のバランス顧客発話率顧客がどれだけ話したか顧客が途切れずに長く話す場面がある商談ほど結果がよい傾向(Gong)顧客の発話秒数÷総発話秒数沈黙を恐れず、相手の言葉を待つ
話し方のバランス最長モノローグ一方的に話し続けた最長時間自社紹介が長すぎると勝率が下がる傾向(Gong)連続発話の最大秒数説明は分割し、途中で反応を確認
話し方のバランス会話スピード話す速さ速すぎると理解されにくい1分あたりの発話文字数重要箇所は意図的に間を取る
話し方のバランス沈黙の許容相手に考えさせる余白適度な沈黙は熟考を促す無音区間の長さと回数質問後すぐ自分で答えない
質問の量と質質問数(ディスカバリー)課題を引き出す問いの量11〜14問で成功率が最も高く、それ以上は平均的な水準に下がる(Gong・51.9万件超)疑問形・問いかけの回数浅い確認でなく、論点を深掘る質問を設計
質問の量と質C層への質問数決裁者への問いの量SVP以上との初回商談では、成功した商談の質問は平均4問、不成功は平均8問(Gong)相手の役職別に質問数を分解役職に応じて質問の量と粒度を変える
質問の量と質オープン質問比率自由回答を促す問いの割合高いほど顧客の本音が出やすい「はい/いいえ」で終わらない質問の割合クローズド質問をオープンに言い換える
前進のサインnext step設定率次の約束を商談内で確定したか確定した商談ほど前進しやすい次回日程/宿題が決まった商談の割合終盤で必ず次の一手を合意する
前進のサインキーワード出現競合名・価格・ネガティブ語の頻度競合名が早い段階で出る商談は、出ない商談より勝率が高く、終盤に初めて出ると勝率が下がる傾向(Gong)指定語の出現回数と時刻ネガティブ語の直後の応答を検証

このマトリクスの使い方はシンプルです。まず自社の受注商談と失注商談で各指標の平均を出し、「どの指標に最も大きな差があるか」を探します。差が大きい指標こそ、自社にとっての勝敗の分岐点である可能性が高く、優先して改善・コーチングすべきポイントになります。

特に押さえておきたい3つの指標を、もう少し掘り下げます。

トーク比率(話す:聴く) は、最も基本的かつ示唆に富む指標です。「話す43%・聴く57%」という目安は、Gongの初期の分析で高業績の商談に見られた比率として知られています(出典: Gong「Mastering winning sales conversations」)。その後Gongは2025年に、10分以上続いた商談32万6,000件を改めて分析し、営業が話す割合は平均60%、受注商談では57%、失注商談では62%だったと報告しています(出典: Gong「talk-to-listen ratio」)。つまり、43:57はあくまで当初の目安で、実際の商談は営業が話しすぎる方向に偏りがちだということです。さらに重要なのは「一貫性」です。高業績者は受注商談でも失注商談でもトーク比率がほとんど変わらないのに対し、低業績者は受注時54%・失注時64%と、雲行きが怪しい商談ほど話しすぎる傾向が見られました(出典: Gong「The best sales insights of 2025」)。「不安だから埋めるように喋ってしまう」癖が、失注を招くわけです。トーク比率は、自社でも受注/失注を分けて比較する価値が非常に高い指標です。

ディスカバリーの質問数 も、勝敗を大きく左右します。Gongが51万9,000件を超えるB2B商談の録音を分析した結果、質問数が11〜14問のときに成功率が最も高くなり、それ以上に質問を増やすと成功率は平均的な水準へ下がりました(出典: Gong「Nailing your sales discovery calls」)。さらに、相手が上級意思決定者(SVP以上)の場合は逆に少ない質問のほうがよく、成功した初回商談の質問は平均4問、うまくいかなかった商談は平均8問だったという別の分析もあります(出典: Gong「Selling to the C-suite」)。「誰に・どのフェーズで・どれだけ問うか」を分けて見ることが重要です。

next step設定率 は、地味ですが受注確度に直結します。商談の終盤で「次回いつ・何を・誰と」まで具体的に合意できた商談は前進しやすく、逆に「ではまたご連絡します」で終わった商談は立ち消えになりがちです。商談ごとに next step が確定したかをチェックするだけで、パイプラインの停滞が目に見えて減ります。

なお、Gongの数値は海外B2Bの大規模調査に基づく参考値です。トーク比率や質問数の最適解は商材・商談フェーズ・相手の役職によって変わるため、絶対値を鵜呑みにせず、自社データでの受注帯と失注帯の差を見ることが重要です。

定性指標|会話の「質」を捉える

定量指標が会話の構造なら、定性指標は会話の「中身の質」です。AIによる要約・感情分析が補助しますが、最終的には人の判断が入る領域でもあります。

  • 顧客の真の課題:表面的な要望ではなく、その奥にある本当のニーズ(なぜそれが必要なのか)まで掘り下げられているか。
  • 反論処理(オブジェクションハンドリング):価格・競合・タイミングなどの懸念に対し、的確に切り返せているか。懸念を黙殺していないか。
  • 意思決定者の関与:商談に決裁権を持つ人物が登場しているか。担当者だけと話し続けて、決裁プロセスが見えていない状態になっていないか。
  • next stepの質:単に「また連絡します」ではなく、具体的な日程・宿題・関係者を含む前進があるか。

定性指標は数値化しにくいぶん、後述する「勝ちパターン抽出」のなかでチェックリスト化すると、誰でも同じ目線で評価できるようになります。最近は、AIが会話を評価して点数と根拠を示す機能を持つツールも出てきていますが、点数の基準が自社の勝ち方と合っているかは、受注・失注の実例と照らして確かめる必要があります。

指標を見るときの3つの注意点

  1. 絶対値より一貫性・差分で見る:「トーク比率は43:57が正解」と覚えるのではなく、自社の受注帯と失注帯でどう違うかを見ます。前述のとおり、勝敗で数値がブレないこと自体が高業績の特徴です。
  2. 相手の役職・フェーズで基準を変える:上級意思決定者への質問は少ないほうがよいなど、相手によって最適解は逆転します。一律の基準で機械的に評価しないこと。
  3. 単一指標で断定しない:トーク比率だけ、質問数だけで良し悪しを決めると誤判定します。複数指標を組み合わせ、定性面と合わせて総合的に解釈します。

勝ちパターンを抽出する3ステップ|暗黙知を形式知に変える

指標が揃ったら、次は「勝ちパターンの抽出」です。これは、トップ営業の暗黙知をチームの形式知に変換する、商談分析の最も価値あるアウトプットです。多くのツール紹介記事はここを省略しますが、実際に成果を出すには欠かせない工程です。

STEP1|受注商談と失注商談を同一指標で比較する

まず、直近の受注商談と失注商談を、それぞれ複数件ずつ選びます。可能なら「商材・商談規模・フェーズ」が近いものを揃えると、純粋な「やり方の違い」が浮かび上がります。

選んだ商談について、前章の指標マトリクスに沿って数値を並べます。トーク比率、顧客発話率、質問数、next step設定率——同じ物差しで横並びにすることがポイントです。「受注商談では顧客が6割話していたのに、失注商談では営業が7割話していた」「受注商談では平均12問、失注商談では平均4問しか質問していなかった」といった差が見えてきます(ここでの数値は見え方を示すための仮の例です)。

STEP2|共通因子・分岐因子を特定する

並べたデータから、受注商談に共通して現れる因子と、受注と失注で明確に分かれる因子を特定します。

  • 共通因子:受注商談の多くに共通する動き(例:初回で必ず決裁者の関与を確認している、毎回商談内で次回日程を確定している)。これが「勝ちパターン」の核です。
  • 分岐因子:受注と失注で最も差が大きい指標(例:オープン質問の比率、反論処理の有無)。ここが「改善の優先順位」になります。

このとき、定量データだけでなく、実際の会話のどの場面でその差が生まれたかを、文字起こしに戻って確認します。AIの要約で当たりをつけ、該当箇所だけ録音を聞き返すと、効率的に「効いた一言」「失った一言」を特定できます。

比較分析の進め方(架空の記入例):説明のための架空のシナリオです。あるSaaS企業が受注商談5件と失注商談5件を並べたところ、受注商談では顧客発話率が平均60%・質問数が平均12問・next step設定率100%だったのに対し、失注商談では顧客発話率が平均40%・質問数が平均5問・next step設定率40%だった、と仮定します。ここから「初回で課題を深掘る質問が足りず、営業が一方的に説明し、次の約束も取り付けられていない商談ほど失注している」という仮説が立ちます。文字起こしを確認すると、失注商談では顧客が懸念を口にした直後に営業が話題を変えてしまっている場面が共通して見つかった——このように、定量の差から定性の原因へと掘り下げるのが比較分析の流れです。数値はすべて仮定であり、実際の基準値は自社データから導きます。

STEP3|トークスクリプト・チェックリスト・プレイブックに落とす

抽出した勝ちパターンは、再現できる形に落とし込んで初めて組織の資産になります。アウトプットの形は主に3つです。

  • トークスクリプト:受注商談で効いた質問・切り返しを、フェーズ別のスクリプトに反映する。具体的な書き方はトークスクリプトの作り方が参考になります。
  • チェックリスト:商談前後で確認すべき項目を一覧化する(下記参照)。
  • プレイブック:「この業種・このフェーズではこう動く」という型を文書化し、新人教育やロールプレイの教材にする。

最低限、まずはチェックリストから始めるのがおすすめです。たとえば次のような項目を、自社の勝ちパターンに基づいて設計します。

勝ちパターン・チェックリスト(例)

  • 初回商談で顧客に6割以上話してもらえたか(トーク比率)
  • 課題を深掘る質問を10問以上できたか(ディスカバリー)
  • 「なぜそれが必要か」まで一段深く聞けたか(オープン質問)
  • 決裁者・決裁プロセスを確認できたか
  • 顧客の懸念(価格・競合・時期)に黙殺せず応答できたか
  • 商談内で次回の日程・宿題・関係者を合意できたか(next step)

このチェックリストを商談後の振り返りで毎回付けるだけでも、チーム全体の行動が勝ちパターンに寄っていきます。項目の数字(6割・10問)は出発点の目安なので、自社の比較結果に合わせて書き換えてください。

比較する商談が少ないときの注意

少人数のチームや、受注までの期間が長い商材では、比べられる商談が数件しかないこともあります。件数が少ないときは、1件の特殊な商談(紹介案件、既存顧客の追加購入など)が平均を大きく動かすため、次の3つを守ると読み違いを防げます。

  1. 平均だけでなく1件ずつ並べる:外れ値になっている商談がないかを目で確かめる。
  2. 条件の違う商談を混ぜない:新規と既存、紹介と問い合わせ経由を分けて比べる。
  3. 結論ではなく仮説として扱う:見つけた差は「次の10商談で確かめる仮説」とし、チェックリストに入れて効果を確かめてから定着させる。

失注の理由そのものを記録・分類する方法は、失注とは?よくある理由と分析方法で詳しく解説しています。会話データの比較と、失注理由の記録を組み合わせると、勝ちパターンの精度が上がります。

分析で終わらせない|録音→分析→コーチングの運用循環

商談分析でよくある失敗が、「分析レポートは出るが、現場が変わらない」状態です。分析は、次の商談に反映する循環にして初めて成果になります。ここでは、分析を回し続けるための運用設計を示します。

運用循環の全体像|5つの段階のループ

段階やること主な担当アウトプット
① 録音商談を録音・録画し蓄積現場営業商談データ
② 分析指標を算出し受注/失注を比較マネージャー/イネーブルメント指標レポート・勝ちパターン
③ コーチング1on1・ロープレで個別フィードバックマネージャー改善アクション
④ 改善スクリプト/チェックリストを更新し実践現場営業更新された行動
⑤ 再録音改善後の商談を再び録音し効果検証現場営業次サイクルのデータ

このループを回すことで、「分析→気づき→行動変化→再検証」が継続的に進み、組織の営業力が複利で伸びていきます。一度きりの分析プロジェクトではなく、週次・月次の業務リズムに組み込むことが肝心です。

1on1・ロールプレイへの接続

分析結果は、1on1コーチングと組み合わせると効果が最大化します。マネージャーが「商談のここで話しすぎている」「この懸念に応答できていない」と、実際の録音箇所を指し示しながらフィードバックできるため、抽象的な精神論にならず、具体的な改善点が伝わります。

新人教育では、トップ営業の受注商談の録音を「お手本教材」として使うのが効果的です。優れた質問の順序や間の取り方を、実際の音声で体感させることで、座学やマニュアルよりはるかに速くスキルが定着します。ロールプレイをAIで回す方法はAI営業ロープレの解説、コーチングの進め方は営業コーチングの解説もあわせて参考にしてください。

運用リズムと役割分担

  • 現場営業:日々の商談を録音し、商談後にチェックリストで自己振り返りを行う。
  • マネージャー:週次で担当メンバーの商談を数件分析し、1on1でコーチングする。
  • セールスイネーブルメント:月次で受注/失注の傾向を集計し、勝ちパターン・プレイブックを更新する。

役割を明確にしないと、「録音はしているが誰も分析しない」という形骸化に陥ります。誰が・いつ・何を見るかを最初に決めておくことが、運用を続ける最大のコツです。

KPIの置き方|行動KPIから結果KPIへ

商談分析の効果を測るときは、いきなり受注率(結果KPI)だけを追わないことが重要です。受注率は外部要因の影響が大きく、施策の効果が見えにくいためです。まずは「トーク比率が改善したメンバーの割合」「next step設定率」「チェックリストの実施率」といった行動KPIを置き、それが改善した先に受注率(結果KPI)が動く、という二段構えで設計します。

効果測定の期間も誤解されがちです。商談分析の成果は、行動が変わってから受注として現れるまでにタイムラグがあります。商材のリードタイムが3か月なら、行動KPIは1か月単位で、受注率などの結果KPIは少なくとも1四半期単位で見るのが妥当です。単月の受注率が下がったからといって「効果がなかった」と早合点せず、まず行動KPIが動いているかを確認してから判断します。行動が変わっているのに結果が出ないなら、見ている指標が自社の勝敗とずれている可能性を疑い、比較分析からやり直します。

商談データを案件ごとに集める|会話と商談後の行動をつなぐ

ここまで「商談の録音を分析する」前提で話を進めてきましたが、実は商談分析の精度を左右する隠れた要因が、分析対象データがどこにどう蓄積されているかです。

散在する商談データという課題

多くの組織では、商談に関する情報がバラバラの場所に散らばっています。録音は会議ツール、提案資料はメールやストレージ、商談メモはSFA、顧客とのやり取りはチャット——こうして分断されたデータは、AIにとっても人にとっても分析しづらく、「どの提案のどの場面が刺さったのか」を後から辿るのが困難です。

案件ごとに1か所へ集める意味

そこで有効なのが、商談に関わるデータを案件ごとに1か所へ集めるという考え方です。顧客と共有する場所に資料・やり取り・議事録をまとめておく方法は、デジタルセールスルーム(DSR)と呼ばれる考え方として広まりました。全体像はデジタルセールスルーム完全ガイドで解説しています。

商談の文字起こし・提案資料・やり取りの履歴を案件ごとにまとめておくと、「この案件では、どの資料を提示したあとに会話のトーンが変わったか」といった、録音単体では見えない文脈までつながった状態で振り返れます。

資料の閲覧記録が足す「商談後の行動シグナル」

もう一つの観点は、商談「後」の顧客行動です。提案資料を顧客が何回・どのページを・いつ閲覧したかという記録は、会話だけでは分からない関心の在り処や、検討の温度感を示すシグナルになります。

商談中の会話分析(言ったこと)と、商談後の閲覧データ(その後の行動)を組み合わせると、「商談では好感触だったのに資料が一度も開かれていない=失注リスク」「特定ページを繰り返し見ている=関心が高い論点」といった、より立体的な状況把握が可能になります。

さらに、こうして集めた商談データは、勝ちパターン抽出の精度そのものを高めます。録音だけを分析していると「会話の中身」しか見えませんが、「どの提案資料を出したか」「その資料を顧客がどれだけ読み込んだか」「次にどんな質問が来たか」までひとつながりで残っていれば、受注商談に共通する"提示の順序"や"刺さった資料"まで型として抽出できます。分析の質は、分析対象データがどれだけ揃っているかに大きく依存する——この前提を押さえておくと、商談分析の投資対効果は大きく変わります。

Terasuでできること・できないこと

Terasuは、顧客と進める案件の共有ワークスペースです。会話解析ツールのようにトーク比率や質問数を自動で算出する機能はありません。そのかわり、打ち合わせの記録と打ち合わせ後の先方の動きを、案件ごとの「Room」にまとめる部分を担います。2026年10月時点で、次のことができます。

  • 会議の文字起こしをRoomに残す:Roomから会議を作るとZoomのURLが発行され、録画をオンにしておけば、終了後に文字起こしがRoomに保存されます(Zoom連携とクラウド録画が必要です)。
  • 資料の閲覧状況を確かめる:Roomで共有した資料を、誰がどれだけ見たかを確かめられます。無料プランで分かるのは、閲覧した人ごとの合計の閲覧時間と閲覧したページ数です。PDFのページごとの閲覧時間や、誰がどのページを何秒見たかの表は、Soloプラン以上の詳細な閲覧分析で使えます。
  • 議事録やメモからタスク候補を出す:議事録やメールの本文を貼ると、やることの候補が根拠になった発言と一緒に出ます。
  • Roomの記録をもとにAIに聞く:「前回何を決めた?」と聞くと、Roomの議事録・資料・タスクをもとに、元の記録へのリンク付きで答えます。この機能はSolo・Business・Enterpriseプランで使え、Free・Starterプランは対象外です。

会話解析ツールで会話の指標を測り、Terasuで打ち合わせ後の資料の読まれ方と決まったことを残す、という組み合わせで使うのが現実的です。プランごとの機能と料金は料金ページで確認できます。

Terasuへの相談が向いているのは、提案資料をメール添付で送っていて先方の確認状況が見えないチームや、打ち合わせの録音・資料・決まったことが別々の場所にあって振り返りに時間がかかっているチームです。反対に、まだ打ち合わせの録音そのものを始めていない段階なら、相談を急ぐ必要はありません。後述のスモールスタート4ステップで、会議ツールの録画から比較を始めてください。

議事録と資料の閲覧状況を、案件ごとに1か所へ

Terasuは、議事録・資料・やり取りを案件ごとのRoomにまとめ、共有した資料を先方がどれだけ見たかを確かめられる共有ワークスペースです。無料プランでは閲覧した人ごとの合計時間とページ数、Soloプラン以上ではページごとの閲覧時間まで分かります。

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商談分析AIツールの選び方|7つの観点と主要6ツール

自社で分析を回す体制が見えたら、ツール選定です。ここでは何を基準に選ぶかという選定軸と、主要なツールの特徴を公式情報で整理します。

ツール選定の7つの観点

観点確認ポイント
録音/録画範囲オンライン会議のみか、電話・対面商談まで対応するか
対応会議ツールZoom・Google Meet・Microsoft Teams など自社利用ツールに対応するか
文字起こし精度業界用語・固有名詞の認識精度、辞書登録の可否
分析指標の深さトーク比率・質問数・感情分析・キーワード追跡などどこまで自動算出するか
CRM/SFA連携Salesforce・HubSpot 等へ自動入力・連携できるか
コーチング機能スコアリング・改善提案・教材化など育成を支援するか
料金・セキュリティ課金体系、録音データの暗号化・アクセス権限・コンプラ対応

特に見落としがちなのが「分析指標の深さ」です。文字起こし・要約だけのツールと、トーク比率や質問数まで自動算出するツールでは、勝ちパターン抽出に使えるかどうかが大きく変わります。本記事の指標マトリクスを基準に、必要な指標が取れるかを確認しましょう。

国産型 vs 海外型

会話解析(CI)の本場は海外で、Gongが代表格です。大規模データに基づく分析が強みですが、日本語の文字起こし精度や国内CRMとの連携、サポート体制では国産ツールに分があるケースもあります。国産では amptalk、ACES Meet、MiiTel、ailead などが商談の記録・解析に対応し、日本語商談・対面商談・国内ツール連携に強みを持ちます。自社の商談が日本語中心か、どの会議ツールを使っているか、既存のSFAは何かを起点に選ぶのが現実的です。営業DX全体のツール選定は営業DXツール比較、CRM側のAI活用はCRM AIエージェント比較もあわせて検討してください。

主要な商談解析ツールの早見

代表的なツールの特徴を、各社の公式サイト・公式発表で確認できた範囲で整理します(2026年10月時点。機能・料金は各社で更新されるため、最新情報は公式で要確認)。料金はいずれも公式サイトで一律の金額が示されていないか、プランや人数で変わるため、見積もりで確認してください。

ツール公式で確認できた特徴向いているケース
amptalk analysisIP電話やテレビ会議と連携し、オンライン商談や架電を自動で書き起こし・要約・解析。アプリで対面商談をワンクリック録音。2025年8月から携帯3社の通話にも対応し、SalesforceなどのSFA/CRMへ自動連携対面商談や携帯での電話商談が多い組織
ACES Meet対面を含む会議を文字起こし・要約するAI議事録ツール。話者を識別し、辞書登録で社内用語を学習。商談内容をSalesforceの項目へ自動反映商談記録をSalesforceに確実に残したい組織
MiiTel電話・Web会議・対面の会話を扱う音声解析AI。電話の会話をAIが分析・採点し、AIコーチが改善点を示す。話し方やキーワードを可視化インサイドセールス・電話営業中心
aileadZoom・Microsoft Teams・Google Meet、Dialpad・Zoom Phone、対面会議の会話を集め、議題・合意・懸念・次のアクションを抽出。全商談にAIがフィードバック会話データを商談の振り返りから採用評価まで広く使いたい組織
Zoom Revenue AcceleratorZoomの会話インテリジェンス製品。通話の前・中・後のコーチング、案件の健全度の把握、AIによる要約と次のステップ、CRMへの結果反映Zoomを主軸に商談している組織
Gong(海外)すべての顧客接点を記録し、何が効いているかを分析して次の動きを自動化する「Revenue AI」。売上予測(Forecast)やAIエージェントも提供英語商談が多い、大規模・高度な分析が必要

ツールはどれを選んでも、本記事で示した「指標で測り、受注/失注を比較し、勝ちパターンを抽出して運用に乗せる」という型がなければ宝の持ち腐れになります。逆に、その型さえあれば、まずは手元の会議ツールの録画からでも分析は始められます。

「AI搭載」の実用度を見極める

近年は多くのツールが「AI搭載」を謳いますが、その実装レベルはまちまちです。「文字起こしの要約まで」なのか、「受注確度のスコアリング」「次のアクション提案」まで踏み込むのかで、得られる価値は大きく異なります。デモの際は、自社の実際の商談データを使わせてもらい、本記事の指標が実用的な精度で出るかを確認するのが確実です。AI営業支援の全体像はAI営業エージェントの解説も参考になります。

デモ・トライアルで確かめる5つの質問

ツールの説明資料だけでは、自社で使えるかどうかは分かりません。デモやトライアルでは、次の5つを質問すると比較しやすくなります。

  1. 自社の商談1件で、トーク比率と質問数がどう表示されるか:自社の録音を使って、指標が実際に出るかを見る。
  2. 業界用語や製品名の誤変換をどう直せるか:辞書登録の方法と、直した結果が次の商談に反映されるかを確かめる。
  3. 対面商談と電話はどう録るか:専用アプリが必要か、会議室のマイク環境で精度がどう変わるかを聞く。
  4. CRM/SFAへのどの項目に、どのタイミングで書き込まれるか:自動入力された内容を人が確認してから反映できるかも確かめる。
  5. 録音データの保存期間・削除方法・AI学習への利用有無:契約書や利用規約のどこに書かれているかまで確認する。

対面商談・録音の同意・セキュリティの実務

商談分析を始める際に必ず押さえるべきなのが、録音をめぐる実務とコンプライアンスです。ここを曖昧にすると、後で大きなトラブルになりかねません。

対面・オフライン商談の録音方法

オンライン商談は会議ツールの録画機能で完結しますが、対面商談はひと工夫必要です。スマートフォンやICレコーダーのアプリ、対面商談に対応した商談解析ツール(amptalk analysisのアプリやACES Meetなど、対面の録音に対応したものがあります)を使うのが一般的です。対面では複数人が同時に話すため、話者分離の精度が落ちやすい点に留意し、座席配置やマイク位置にも配慮します。

顧客の録音同意の取り方

商談の録音は、顧客の同意を得たうえで行うのが原則です。無断録音は信頼関係を損なうリスクが大きく、避けるべきです。実務上は、商談冒頭で「品質向上と社内共有のため録音させていただいてよろしいでしょうか」と一言断るのが基本です。オンライン会議では録画開始時の通知機能を活用し、記録が残っていることを明示します。録音の目的(社内の振り返り・教育など)を正直に伝えると、応じてもらいやすくなります。「より良いご提案のために記録させてください」という姿勢は、丁寧な営業という印象にもつながります。同意が得られない場合は無理に録音せず、商談後の手書きメモで指標を概算する運用に切り替えます。

個人情報保護法との関係|利用目的の通知・公表

録音や文字起こしに、相手の氏名や発言内容など特定の個人を識別できる情報が含まれる場合は、個人情報として扱う前提で運用するのが安全です。個人情報保護法の第21条は、個人情報を取得した場合、あらかじめ利用目的を公表しているときを除き、速やかに利用目的を本人に通知するか公表しなければならないと定めています(出典: e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」)。

実務では、次の2つを組み合わせると対応しやすくなります。

  • プライバシーポリシーなどで利用目的を公表しておく:「商談の品質向上・社内教育のために会話を記録・分析することがある」と書いておく。
  • 商談の冒頭で口頭でも伝える:録音すること、使い道、社外に出さないことを一言で伝え、同意を得る。

業種や取引先によっては、社内規程や契約で録音そのものが制限されている場合もあります。個別の判断に迷うときは、自社の法務担当や専門家に確認してください。

保存期間・アクセス権限・個人情報保護

録音データには個人情報や企業秘密が含まれるため、運用ルールの整備が欠かせません。最低限、次の3点を定めておきます。

  • 保存期間:いつまで保管し、いつ削除するか。
  • アクセス権限:誰が録音・文字起こしにアクセスできるか(管理者と一般メンバーで権限を分ける)。
  • 第三者提供・学習利用の制限:録音データを外部に提供しないか、AIの学習に使われない契約になっているか(特に機密性の高い商談では、データが学習に使われないツールを選ぶ)。

通信中・保存中のデータが暗号化されているか、海外の顧客を扱う場合はGDPRなど各国の規制に沿った運用ができるかも、ツール選定時に確認すべき重要ポイントです。

議事録AIとの違いと使い分け

「商談を録音して文字起こしする」という点で、商談分析AIは議事録AIと混同されがちです。しかし両者は目的が異なり、補完関係にあります。

観点議事録AI商談分析AI(商談解析)
主目的会議・商談の記録・要約・共有受注/失注の要因分析・勝ちパターン抽出
主なアウトプット議事録・要約・タスク抽出指標レポート・スコアリング・改善提案
見るデータ「何が話されたか」「どう話されたか・なぜ売れたか」
主な利用者商談参加者・関係者全員営業マネージャー・イネーブルメント
ゴール記録の効率化・情報共有営業力の底上げ・再現性の向上

実務では両者を組み合わせるのが理想です。議事録AIで日々の商談を記録・共有しつつ、その蓄積データを商談分析AIで定期的に分析し、勝ちパターンを抽出する——という役割分担です。記録・作成・共有の側面は議事録AIに、分析・勝ちパターン抽出は商談分析AIに任せると、それぞれの強みが活きます。議事録AIの選び方はAI議事録の解説で詳しく扱っています。

具体的なイメージを挙げると、こうなります。商談直後は議事録AIが要約とタスクを自動生成し、チームに即共有して案件を前に進めます。一方で週末や月末には、マネージャーやイネーブルメント担当が、同じ録音データを商談分析AIの目線で見直し、「今週の受注/失注で何が違ったか」を指標で振り返ります。日々の運用は議事録AI、定期的な振り返りと型化は商談分析AI、と時間軸で役割を分けると、現場の負担を増やさずに分析を回せます。多くのツールはこの両機能を併せ持つため、最初から両方を別々に導入する必要はなく、まずは持っているツールのどの機能を「記録」に使い、どの機能を「分析」に使うかを意識的に切り分けることから始めるとよいでしょう。受注の行動科学をさらに深掘りしたい場合は、Gongのディールエクゼキューション研究が参考になります。

商談分析の始め方|スモールスタート4ステップ

「いきなり高機能ツールを導入して全社展開」は、多くの場合うまくいきません。商談分析は、小さく始めて成功体験を作ってから広げるのが定石です。ツールがなくても今日から始められる、4ステップの進め方を示します。

STEP1|まず数件の商談を録音する

最初の対象は、エースと中堅メンバーの直近商談で十分です。オンライン商談なら会議ツールの録画機能で事足ります。完璧なデータを集めようとせず、まずは「受注した商談」と「失注した商談」をそれぞれ数件、録音・録画して手元に揃えることから始めます。

STEP2|本記事の指標で手動比較する

集めた商談を、本記事の指標マトリクスのうち「トーク比率」「顧客発話率」「質問数」「next step設定率」の4つに絞って、表計算ソフトで手動集計します。話者ごとの発話時間は、会議ツールの文字起こしや録画のタイムスタンプからおおよそ把握できます。この段階では精緻さより、「受注/失注で差が出る指標はどれか」を掴むことが目的です。

STEP3|差が大きい1〜2指標に的を絞る

比較で最も差が大きかった指標を1〜2個選び、それを「自社の勝ちパターンの核」と仮定します。たとえば「質問数」に最も差があったなら、まずはディスカバリーの質問設計だけに集中します。あれもこれもと欲張らず、的を絞ることが定着の鍵です。

STEP4|1on1とチェックリストで現場に落とす

絞った指標を、前述の勝ちパターン・チェックリストに反映し、商談後の自己振り返りとマネージャーの1on1で使います。ここまでをツールなしで2〜3週間回し、手応えが出てきた段階で、自動分析ツールの導入を検討します。手動でも効果が出る型を先に作っておくと、ツール導入後の立ち上がりが格段に速くなります。

導入で成果が出ない失敗パターンと回避策

最後に、商談分析を導入したものの成果につながらない典型的な失敗パターンを、回避策とともに整理します。

失敗パターン症状回避策
入れただけ録音はしているが誰も分析しない週次・月次の分析リズムと担当を最初に決める
分析しっぱなしレポートは出るが現場が変わらない1on1・ロープレで録音箇所を示しコーチングに接続
同意・運用ルール未整備顧客とのトラブル、情報漏洩リスク録音同意・利用目的の公表・保存期間・アクセス権限を事前に策定
指標を見すぎる全指標を追って何も改善しない受注/失注で差が大きい1-2指標に絞る
単月で判断短期の数字で効果なしと結論づける行動KPI→結果KPIの二段構えで中期で評価
データが散在分析に必要な情報が集まらない録音・資料・閲覧記録を案件ごとに1か所へ集める
海外の目安をそのまま使う43:57に合わせることが目的になる自社の受注/失注の差を基準にし、海外データは参考値として扱う

共通して言えるのは、ツールの導入はスタートに過ぎず、分析を運用に乗せきれるかが成否を分けるということです。小さく始めて、まずは受注/失注の比較と1-2指標の改善から回し始めるのが、定着への近道です。

よくある質問(FAQ)

商談分析AI(AI商談分析・商談解析)とは何ですか?

商談分析AIとは、商談の録音・録画を音声認識AIで文字起こしし、話者比率・質問数・キーワード・トーク構造などを定量化することで、受注/失注を分けた要因を可視化する手法です。担当者の記憶や主観に頼らず実際の会話データを分析することで、トップ営業の暗黙知を組織が再現できる「型」に変換し、営業全体の受注率向上やスキルの標準化につなげます。

商談分析AIを導入すると本当に受注率は上がりますか?

導入しただけで自動的に上がるわけではありません。商談分析が効果を発揮するのは、「録音→分析→コーチング→改善→再録音」の運用循環に乗せた場合です。受注商談と失注商談を同じ指標で比較し、差が大きいポイントを1on1コーチングで改善し続けることで、行動が勝ちパターンに寄り、結果として受注率が改善していきます。分析を現場の行動変化につなげられるかが鍵です。

商談の録音には顧客の同意が必要ですか?

信頼関係の観点から、顧客の同意を得て録音するのが原則です。また、録音に特定の個人を識別できる情報が含まれる場合、個人情報保護法第21条により、取得後は速やかに利用目的を本人に通知するか公表する必要があります(あらかじめ利用目的を公表していれば不要です)。実務では商談冒頭で録音の目的を伝えて同意を得つつ、プライバシーポリシーなどで利用目的を公表し、保存期間やアクセス権限も社内で定めておきましょう。

対面・オフラインの商談も分析できますか?

できます。スマートフォンやICレコーダーのアプリ、対面商談の録音に対応した商談解析ツールを使えば、オフライン商談も録音・文字起こし・分析が可能です。ただし対面では複数人が同時に話すため、オンラインに比べて話者分離の精度が落ちやすく、マイク位置や座席配置への配慮が必要です。

議事録AIと商談分析AIは何が違いますか?

議事録AIは会議・商談の「記録・要約・共有」が主目的で、何が話されたかを残すツールです。一方、商談分析AIは「受注/失注の要因分析・勝ちパターン抽出」が目的で、どう話されたか・なぜ売れたかを分析します。議事録AIで日々記録しつつ、その蓄積を商談分析AIで定期的に分析する、という補完的な使い分けが理想です。

中小企業や少人数チームでも使えますか?

使えます。むしろ少人数のほうが、トップ営業の動きをチームに展開する効果が出やすい面もあります。最初から高機能なツールを導入する必要はなく、まずは会議ツールの録画と本記事のチェックリストで「受注/失注の比較」を手動で始め、効果を確かめてからツール導入を検討するスモールスタートがおすすめです。

どの指標を見れば商談の勝敗が分かりますか?

単一の指標で断定はできませんが、起点として有効なのはトーク比率、顧客発話率、ディスカバリーの質問数、next step設定率です。Gongの2025年の分析では受注商談の営業の発話が平均57%、失注商談は62%で、質問数は11〜14問で成功率が最も高い傾向でした。重要なのは絶対値より、自社の受注商談と失注商談で最も差が大きい指標を見つけることです。

無料で商談分析を始められますか?費用相場は?

会議ツールの録画機能と表計算ソフトを使えば、ツール費用ゼロで「受注/失注の比較」を始められます。本格的な自動分析ツールは、ユーザー数や機能範囲に応じた課金が一般的で、公式サイトで一律の金額を示していないツールも多いため、見積もりで確認します。まずは無料の手動分析で効果を確かめ、手応えが出てから有料ツールに移行すると、投資判断を誤りにくくなります。

営業の商談を成功させるコツは?(AI分析の観点から)

商談分析のデータが示す共通点は、「営業が話しすぎず、顧客に多く話してもらう」「課題を深掘る質問を十分にする」「懸念を黙殺せず応答する」「商談内で次のステップを確定する」という4点です。これらは才能ではなく、録音を振り返り、チェックリストで毎回確認することで誰でも改善できるスキルです。感覚ではなくデータで自分の商談を見る習慣が、成功への近道です。

Terasuは商談分析AIとして使えますか?

Terasuにはトーク比率や質問数を自動で算出する機能はありません。顧客と進める案件の共有ワークスペースとして、Zoomの会議の文字起こしや議事録、提案資料、やり取りを案件ごとのRoomにまとめ、共有した資料を先方がどれだけ見たかを確かめる用途で使えます(ページごとの閲覧時間はSoloプラン以上)。会話の指標は会話解析ツールで測り、打ち合わせ後の動きをTerasuで追う組み合わせが現実的です。

まとめ|商談分析は「録音」ではなく「運用」で決まる

商談分析AIは、ブラックボックスだった商談を録音データから定量的に可視化し、受注/失注を分ける要因を明らかにする手法です。トップ営業の暗黙知を組織の形式知に変え、誰もが勝ち筋を再現できる状態をつくることが、その本質的なゴールです。本記事のポイントを振り返ります。

  • 商談分析とは、録音→文字起こし→定量/定性分析で勝敗の要因を可視化し、勝ちパターンを再現する手法。
  • 測るべき指標(トーク比率・顧客発話率・質問数・next step設定率など)は、絶対値より自社の受注/失注の差で見る。Gongの43:57は初期の目安で、2025年の分析では受注商談でも営業が平均57%話していた。
  • 勝ちパターンは「受注↔失注の比較→共通因子の特定→スクリプト/チェックリスト化」の3ステップで抽出する。比較する商談が少ないときは、仮説として扱い次の商談で確かめる。
  • 分析は「録音→分析→コーチング→改善→再録音」の運用循環にして初めて成果になる。
  • 録音を使うなら、顧客の同意と、個人情報保護法第21条に沿った利用目的の公表・通知をセットで整える。
  • 録音・資料・閲覧記録を案件ごとに1か所へ集めると、商談中の会話と商談後の行動をつなげて振り返れる。

最も大切なのは、ツールを導入することではなく、分析を日々の運用に乗せきることです。まずは直近の受注商談と失注商談を数件ずつ並べて比較するところから始めてみてください。

議事録と、先方の資料の確認状況を1つのRoomに

Terasuなら、議事録・提案資料・やり取りを案件ごとのRoomにまとめ、共有した資料を先方がどれだけ見たかを確かめられます(ページごとの閲覧時間はSoloプラン以上)。会話解析ツールで測った指標と、打ち合わせ後の先方の動きをあわせて振り返れます。

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