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カスタマーマーケティングとは?CS・ABMとの役割分担と既存顧客から商談を生む設計

著者: Terasu 編集部

カスタマーマーケティングとは、すでに契約している既存顧客を対象に、活用促進・拡張提案・推奨獲得を目的として行うマーケティング活動の総称である。新規顧客の獲得を目的とするマーケティングとは、対象・目的・成果指標のいずれもが異なる。

この記事のポイント:

  • カスタマーマーケティングの定義そのものは各社でほぼ一致している。実務で詰まるのは定義ではなく、カスタマーサクセス・ABM・営業と誰が何を持つのかという役割分担
  • 「適切なタイミングで提案する」で止めず、誰に・どのシグナルで・何を出すかを対応表として設計しないと、施策は個人の勘に戻る
  • 顧客事例・レビュー・紹介が集まらない原因の多くは熱意不足ではなく、断られる理由が4種類あり、それぞれ打ち手が違うことを整理していない点にある
  • 施策には主管部署と最小体制がある。顧客数が少ないフェーズでは着手しないほうが速いという判断基準もあわせて示す

「新規獲得のコストが上がり続けている」「既存顧客からの売上を伸ばしたいが、誰が何をやるのか決まっていない」——サブスクリプション型のビジネスが広がるなかで、既存顧客に向き合うマーケティングの必要性を感じている方は多いはずです。

一方で、カスタマーマーケティングという言葉は定義の解説記事が多く、実際に自社で始めようとすると「カスタマーサクセスとの線引き」「誰が担当するのか」「何から手をつけるのか」で止まりがちです。

本記事では、定義を最小限に整理したうえで、カスタマーサクセス・ABM・営業との責任分界、既存顧客からアップセル商談を生む導線設計、顧客事例やレビューを仕組みで集める方法、施策ごとの主管と最小体制、KPIの設計までを解説します。あわせて、既存顧客の関心の変化を捉える手段としてデジタルセールスルーム(DSR)を使う方法にも触れます。


カスタマーマーケティングとは(定義と新規獲得マーケティングとの違い)

カスタマーマーケティングとは、すでに自社と契約している顧客に対して、製品の活用促進・拡張提案・推奨獲得を目的に行うマーケティング活動の総称です。

対象が「まだ自社を知らない人」ではなく「すでにお金を払っている人」である点が最も根本的な違いであり、そこからすべての設計が変わります。

観点新規獲得マーケティングカスタマーマーケティング
対象自社を知らない/検討中の見込み顧客契約済みの既存顧客
主目的リード獲得・商談創出活用促進・拡張提案・推奨獲得
保有データ行動ログ中心(匿名〜半匿名)契約内容・利用実績・担当者が特定済み
成果指標リード数・CPA・商談化率NRR・解約率・拡張売上・事例獲得数
メッセージ課題の気づきと解決策の提示使いこなしと次の一手の提示
失敗したときの影響獲得できない(機会損失)信頼を失う(既存売上の毀損)

とくに注意したいのが最終行です。新規向けの施策は当たらなければ何も起きませんが、既存顧客向けの施策は外すと関係そのものを痛めます。押し売りに見えるメール、すでに使っている機能の紹介、解約を検討している顧客への上位プラン提案——いずれも「自社のことを見ていない」という印象を与えます。カスタマーマーケティングが新規獲得マーケティングの手法をそのまま流用できない理由はここにあります。

なぜいま整理が必要なのか

背景として挙げられるのは主に2点です。

サブスクリプション型モデルの普及により、売上が「売り切り」ではなく「継続」で積み上がる構造になりました。契約後に使われなければ更新されないため、契約後の関与が売上に直結します。

新規獲得コストの上昇も要因です。広告費の高騰と競合の増加により、1件の新規契約を取るコストは上がりやすくなっています。すでに信頼関係のある既存顧客から追加の売上を作るほうが、単位あたりのコストは低く抑えられます。

ただし、この2点はどの解説記事にも書かれている一般論です。実務で本当に難しいのは、次章で扱う役割分担のほうです。

【注記】花王・コカ・コーラなどの同名企業について

「カスタマーマーケティング」で検索すると、花王グループカスタマーマーケティング株式会社花王カスタマーマーケティング株式会社コカ・コーラ カスタマー マーケティング株式会社ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社といった、社名に同じ語を含む企業が上位に並びます。これらは消費財メーカーの販売・営業を担ってきたグループ会社の社名であり、本記事で扱うマーケティング手法とは別のものです。

企業情報・採用情報をお探しの場合は、各社の公式サイトをご確認ください。本記事はBtoB企業が既存顧客に対して行うマーケティング活動についての解説です。


カスタマーサクセス・ABM・営業との役割分担【責任分界表】

カスタマーマーケティングを始めるときに最初に揉めるのが、カスタマーサクセス(CS)との線引きです。「どちらも既存顧客を見る」という点が共通しているため、担当範囲が曖昧なまま走り出し、施策が二重になるか、誰も拾わない領域が生まれます。

さらにBtoBではABM(アカウントベースドマーケティング)や営業のファーミング活動も既存顧客に関与するため、実際には4者の整理が必要です。

カスタマーサクセスカスタマーマーケティングABM営業(ファーミング)
主対象契約済み顧客(個社)契約済み顧客(群)狙うアカウント(新規・既存の双方)担当アカウント(個社)
単位1社ずつセグメント単位アカウント単位1社ずつ
目的顧客の成果達成・継続活用促進・拡張提案・推奨獲得狙ったアカウントの獲得・取引拡大個社の売上最大化
起動トリガー顧客の状態変化施策カレンダー・シグナルターゲットリスト商談・更新時期
主な成果物支援・オンボーディングコンテンツ・施策・事例個社別アプローチ提案・受注
代表KPI解約率・ヘルススコア拡張売上・事例獲得数ターゲット内商談化率受注額・NRR
成果の帰属顧客の継続施策の到達と反応対象アカウントの獲得・拡大個社の売上

各領域の詳細は個別記事に譲ります。CSの立ち上げと組織設計はカスタマーサクセスとは、ABMの3類型とICP定義はABMとは、個社ごとの攻略設計はアカウントプランの作り方、既存顧客の深耕営業そのものはファーミング営業を参照してください。

どこまでがCSで、どこからがマーケか — 判断3基準

表だけでは実際の案件を裁けません。迷ったときは次の3基準で判断すると、線引きが安定します。

基準1: 対象は「1社」か「群」か

特定の1社の状況に応じて内容を変えるならCS、同じ条件を満たす複数社に同じものを届けるならカスタマーマーケティングです。「A社の利用率が落ちているので個別にフォローする」はCS、「利用率が30%を下回った顧客層に活用ガイドを配信する」はカスタマーマーケティングになります。

基準2: 成果は「顧客の状態」か「施策の反応」か

その活動の成否を「顧客が継続したか」で測るならCS、「施策がどれだけ届き、どれだけ反応があったか」で測るならマーケティングです。前者は個社の事情に大きく左右されますが、後者は施策そのものの良し悪しとして評価できます。

基準3: 起動するのは「顧客側の変化」か「自社側の計画」か

顧客の利用状況や問い合わせが起点ならCS、自社のコンテンツ計画やキャンペーンが起点ならカスタマーマーケティングです。

この3基準を使っても割り切れない領域は必ず残ります。代表例がアップセル提案で、CSが個社の状況を見て起こすこともあれば、マーケが条件に合う顧客群へ一斉に投げることもあります。重要なのはどちらが正しいかではなく、自社ではどちらが持つかを先に決めておくことです。決めていない状態が最も事故を招きます。


カスタマーマーケティングの代表的な施策6つ(主管・最小体制つき)

施策そのものは各社の解説とほぼ共通しています。ただし「やりましょう」で終わる解説が多いため、ここでは主管部署と、最低限必要な体制をあわせて示します。

施策内容主な主管最小体制の目安
オンボーディング支援契約直後の立ち上げを標準化するCSCS担当が既存業務内で対応可能
活用促進コンテンツ使い方・事例・Tipsを継続配信マーケ兼任1名+CSからのネタ提供
ユーザーコミュニティ顧客同士が交流・情報交換する場マーケ専任0.5〜1名。運営負荷が最も高い
VOC(顧客の声)収集アンケート・問い合わせから声を集約CS+マーケ兼任1名+集計の仕組み
事例・レビュー獲得導入事例・レビューサイト掲載を獲得マーケ兼任1名+法務広報の窓口
拡張提案(アップセル等)上位プラン・関連製品を提案営業+マーケ営業の既存体制+条件設計

体制の列を見ると分かるとおり、負荷は施策によって大きく異なります。とくにユーザーコミュニティは「他社がやっているから」で着手されやすい一方、投稿が生まれ続ける状態を維持するには継続的な運営工数がかかり、活性化しないまま放置されるケースが少なくありません。着手順序としては、負荷が低く効果が読みやすい活用促進コンテンツと事例獲得から入るのが現実的です。

以下、それぞれの中身を補足します。

1. オンボーディング支援

契約直後に「使い始められる状態」まで持っていく活動です。ここが崩れると後続の施策がすべて効かなくなるため、優先度は最も高くなります。属人的な立ち上げ支援を、初期設定の手順・最初に達成すべき状態・つまずきやすい箇所の3点で標準化するところから始めます。

主管はCSですが、標準化した資料やガイドの整備はマーケティング側が担うと分業が成立します。具体的な進め方はDSRを使ったCSオンボーディングで扱っています。

2. 活用促進コンテンツ

使い方・活用事例・機能アップデートなどを継続的に届ける施策です。最も着手しやすく、効果も読みやすいため、最初の一手として適しています。

重要なのはネタの供給源で、マーケティング単独では書くことがすぐ尽きます。CSへの問い合わせで多かった質問、うまく使えている顧客の運用方法、サポートで解決した困りごと——これらを定期的に吸い上げる導線を作っておくと、コンテンツが枯れません。

3. ユーザーコミュニティ

顧客同士が交流し、活用方法を共有する場を用意する施策です。うまく回れば顧客同士で疑問が解決し、支援コストが下がり、推奨も生まれます。

ただし6施策のなかで最も運営負荷が高く、失敗も多い領域です。投稿がない状態が続くと参加者は離れ、再起動はさらに難しくなります。着手前に、最初の投稿を継続的に供給できる人がいるか、参加する動機が顧客側にあるかを確認してください。顧客数が少ないうちは、コミュニティより個別の情報交換の場を作るほうが機能します。

4. VOC(顧客の声)の収集

アンケート・問い合わせ・商談メモなどから顧客の声を集約し、製品改善や施策に反映する活動です。集めること自体が目的化しやすいため、反映するプロセスまで含めて設計する必要があります。

最低限決めておくのは、どこから集めるか(アンケート・問い合わせ・CSの面談記録)、誰が分類するか、どの会議で扱うか、反映したことを顧客にどう返すかの4点です。とくに最後の「返す」工程が抜けると、回答率が回を追うごとに落ちていきます。

5. 事例・レビューの獲得

導入事例やレビューサイトへの掲載を獲得する施策です。獲得した事例は新規獲得の武器になるだけでなく、既存顧客向けの活用コンテンツとしても機能します。この領域は属人化しやすいため、後述の「お願いベースから仕組みへ」で詳しく扱います。

6. 拡張提案(アップセル・クロスセル)

上位プランや関連製品を提案し、契約を拡大する施策です。実際の提案は営業が行うことが多いため、マーケティング側の役割は提案すべき顧客を条件で抽出し、使える材料を揃えることになります。

提案内容そのもの(アップセルとクロスセルの違い、ダウンセルの位置づけ、やってはいけない提案)はアップセル・クロスセルとはを参照してください。抽出の条件設計は次章で扱います。


カスタマーマーケティングの始め方(ステップ0〜5)

施策を並べる前に、進め方の順序を確認します。多くの現場では施策の選定から入りますが、顧客の状態が把握できていない段階で施策を決めると、届ける相手を定義できません。そしてその前に、そもそも着手すべきフェーズかどうかの判定が要ります。

ステップ0: そもそも着手すべきかを判定する

多くの解説記事は「カスタマーマーケティングをやるべきだ」で終わりますが、着手しないほうが速いフェーズは実在します。次に当てはまる場合は、仕組み化を急がず個別対応を優先してください。

  • 顧客数が数十社以下で、担当者が全社の状況を頭に入れられる: セグメント配信より、1社ずつ話したほうが精度も速度も上です
  • 製品がまだ安定しておらず、解約理由の大半が機能不足: マーケティング施策では解決しません。製品改善が先です
  • オンボーディングが確立していない: 立ち上げで躓く顧客が多い状態で拡張提案をしても、不信感が増すだけです
  • 既存顧客の成果を1件も言語化できていない: 事例もコンテンツも、語れる成果がなければ作れません。まず1社で成果を出すことが先決です

逆に言えば、これらが解消された時点が着手の適期です。「他社がやっているから」で始めると、運用されないコミュニティと更新されないメールマガジンが残ります。

ステップ1: 既存顧客の状態を棚卸しする

まず、いま何社の顧客がいて、それぞれがどういう状態にあるかを一覧にします。必要な項目は、契約プラン・契約開始時期・更新月・利用状況・導入目的・成果の有無の6つです。

この時点で「利用状況が分からない」「導入目的が記録されていない」ことに気づく場合が多く、それ自体が最初の課題になります。完璧を目指さず、分かる範囲で埋めて空欄を可視化してください。

ステップ2: セグメントを決める

棚卸しした顧客を、施策を出し分ける単位に分けます。最初は細かく分けすぎず、3〜5程度に留めるのが現実的です。

よく使われるのは「立ち上げ中/定着済み/拡大余地あり/要注意」といった状態ベースの分類です。プランや業種で分けたくなりますが、打ち手が変わらない軸で分けても意味がありません。分けた結果として施策が変わるかどうかを基準にしてください。

ステップ3: セグメントごとの課題と打ち手を決める

各セグメントについて、いま何が起きていて、何が起きてほしいかを言語化します。「立ち上げ中の顧客が初期設定で止まっている → 設定ガイドを届けて完了率を上げる」といった粒度です。

ここで前章の施策6つから該当するものを選びます。すべてのセグメントに施策を用意する必要はなく、最も社数が多い、あるいは最も影響が大きいセグメントから着手します。

ステップ4: 主管と先行指標を決めてから実行する

施策ごとに、誰が主管を持つか、何を先行指標として見るかを決めます。この2つが決まっていない施策は実行されないか、実行されても評価できません。

前章の体制表のとおり、施策によって必要な工数は大きく異なります。工数が確保できないものは、この段階で落としてください。やると決めて実行されない状態が続くと、次の施策の信頼も失われます。

ステップ5: 振り返って、セグメントと打ち手を更新する

先行指標を月次で確認し、想定した反応が出ているかを見ます。反応がない場合、原因は「届いていない」「届いたが刺さらない」「刺さったが行動に至らない」のいずれかで、打ち手が異なります。到達率・閲覧率・行動率を分けて見ておくと、どこで止まっているかが特定できます。

四半期ごとにセグメントの定義そのものも見直します。顧客数が増えれば適切な分け方は変わるため、初回に決めた区分を固定しないでください。


既存顧客からアップセル商談を生む導線設計

多くの解説が「適切なタイミングで提案することが重要」と書いて終わります。しかし実務で必要なのは、誰に・どのシグナルで・何を出すかの対応関係です。ここを決めないと、結局は担当者の勘と気合いに戻ります。

誰に出すか(対象の絞り込み)

全顧客に同じ提案を投げるのは、既存顧客向け施策として最もやってはいけないことです。最低限、次の3条件で母集団を絞ります。

  • 成果が出ているか: 導入目的に対して成果が出ていない顧客に追加提案をすると、押し売りとして受け取られます。まず成果を出す支援が先です
  • 利用が定着しているか: 契約したが使われていない状態での拡張提案は、解約検討を早める危険があります
  • 予算タイミングに合うか: 期初・更新前など、追加予算を検討できる時期かどうか

この3条件をスコア化する方法としてヘルススコアがあります。スコアの設計手順そのものは同記事に譲ります。

どのシグナルで動くか

対象を絞ったうえで、行動の変化を起点に動きます。代表的なシグナルは次のとおりです。

シグナル何を示唆するか次の一手
上位プラン限定機能のページ閲覧機能不足を感じている可能性該当機能の活用例を提示
利用ユーザー数が契約上限に接近部門展開が進んでいる上位プラン・追加ライセンスの案内
新しい部署の担当者がログイン開始社内での横展開が始まった部門別の活用ガイドを提供
料金ページ・価格資料の再訪予算検討が始まっている見積もり・プラン比較の提示
問い合わせ内容が高度化使いこなしが進んでいる応用機能・連携オプションの提案
経営層が資料を閲覧し始めた社内で投資判断が動いている投資対効果を示す資料を用意

重要なのは、これらのシグナルの大半は「顧客が何かを見た」という閲覧行動である点です。問い合わせや商談として顕在化する前の段階で、関心の変化は資料やページの閲覧に現れます。

何を出すか

シグナルを検知しても、出すものが決まっていなければ動けません。あらかじめシグナルとコンテンツの対応を用意しておきます。

  • 活用が浅い段階: 基本機能の使いこなしガイド、他社の立ち上げ事例
  • 横展開の兆しがある段階: 部門別の活用例、社内展開の進め方、稟議に使える資料
  • 投資判断が動いている段階: 導入効果の整理、上位プランとの比較、見積もり

個社ごとの攻略設計に落とす場合はアカウントプランのフォーマットが使えます。

既存顧客の関心の変化を可視化する

上位プランの機能ページを誰が見たのか、経営層が資料を開いたのか——Terasuのデジタルセールスルームなら、既存顧客と共有した資料の閲覧状況から関心の変化を把握できます。14日間の無料トライアルでお試しいただけます。導入相談・資料請求も承ります。

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アドボカシー(推奨)はどこから生まれるか

カスタマーマーケティングの文脈で頻出するのがアドボカシーという言葉です。アドボカシー(advocacy)は「擁護・支持」を意味し、マーケティングにおいては顧客が自発的に自社を他者へ推奨している状態を指します。

紛らわしいのは、この言葉が複数の意味で使われている点です。

使われ方意味するもの本記事での扱い
顧客の状態としてのアドボカシー顧客が自発的に推奨してくれている状態本章で扱う
アドボカシー・マーケティング顧客利益を最優先することで信頼を得る考え方経営姿勢の話。本記事の範囲外
社会運動としてのアドボカシー権利擁護・政策提言などの活動まったく別分野

実務で扱うのは1行目です。アドボカシーは施策で直接作れるものではなく、結果として現れる状態である点が重要で、ここを取り違えると「紹介キャンペーンを打ったのに誰も紹介してくれない」という状況になります。

推奨が生まれる順序はおおむね決まっています。

  1. 成果が出る — 導入目的に対して顧客側で成果が出ている
  2. 成果を認識している — 顧客自身がその成果を自覚し、社内で説明できる
  3. 推奨する機会がある — 紹介や事例、レビューを求められる接点がある
  4. 推奨しやすい状態にある — 手間が少なく、社内規程上も問題がない

紹介や事例が集まらないとき、多くの現場は3と4だけを改善しようとします。しかし止まっているのが1か2であれば、依頼の工夫では動きません。成果が出ていない顧客に推奨を求めるのは、順序が逆です。

2の「成果を認識している」も見落とされがちです。実際には効果が出ているのに、顧客自身が数字で把握していないケースは珍しくありません。この場合は、利用状況や成果を整理して顧客に返すこと自体が有効な施策になります。事例依頼の前段として、成果の言語化を一緒に行うと承諾率が変わります。

推奨度そのものを測る指標としてはNPS(ネットプロモータースコア)が使われます。高スコアの回答者は事例・紹介の有力候補になるため、調査結果を候補リストに接続しておくと無駄がありません。顧客の愛着や継続意向そのものの捉え方は顧客ロイヤルティで扱っています。


顧客事例・レビュー・紹介を「お願いベース」から仕組みに変える

顧客事例や紹介は、カスタマーマーケティングの成果物のなかで最も価値が高い一方、最も属人化しやすい領域です。「今期は事例を3本作る」と決めても、実際には営業担当が仲の良い顧客に頭を下げて回るだけになり、翌期には再現しません。

仕組みに変えるうえで最初にやるべきは、なぜ断られるのかを分類することです。原因が違えば打ち手も違うのに、多くの現場では「断られた」の一言で片付けられています。

断られる理由の4分類と対処

分類断られ方の典型本当の障害対処
法務・広報の壁「社名を出すのは難しい」社内規程で外部露出に承認が必要匿名事例・業種のみ記載など段階的な選択肢を用意
担当者の工数「時期を見て検討します」取材・確認の手間を負担に感じている所要時間の明示、原稿はこちらで作成、確認は1回
成果が語れない「まだ成果と言えるほどでは」効果を数字で説明できない成果の整理から一緒に行う。定性の変化でも可とする
競合露出への懸念「競合に手の内を知られる」自社の優位性が漏れることを警戒掲載範囲を限定、公開前の内容確認権を約束

このうち**打ち手で動かしやすいのは「担当者の工数」**です。顧客は協力したくないのではなく、面倒なことに時間を割けないだけ、というケースが少なくありません。「30分の取材1回、原稿はこちらで作成、確認は1回のみ」と最初に示すだけで、承諾率は変わります。

事例依頼のタイミングを設計する

もう1つの要因がタイミングです。多くの現場では、事例が必要になった時期(期末や展示会前)に依頼が発生します。しかし顧客側から見れば、それは自社の都合でしかありません。

依頼すべきなのは、顧客側で成果が出た直後です。具体的には次のような瞬間が該当します。

  • 導入目的としていた指標が改善したことを、顧客自身が認識したとき
  • 社内で表彰された、経営層に報告したなど、成果が社内で認められたとき
  • 更新のタイミングで、継続の意思決定が前向きに行われた直後
  • サポートで困りごとを解決し、感謝の言葉があったとき

これらは日常的にCSや営業が接している場面で発生します。その瞬間を検知して事例候補としてストックする仕組みがあるかどうかが、属人化との分かれ目です。ヘルススコアの上昇、NPSの高スコア回答、更新完了といったイベントを候補のトリガーにすると、依頼のタイミングを逃しにくくなります。

法務・広報をどう通すか

社名公開の可否は顧客の社内規程に依存するため、こちらでコントロールできません。できるのは選択肢を段階的に用意しておくことです。

  • 社名・ロゴ・担当者実名・顔写真すべて公開
  • 社名とロゴのみ公開、担当者は匿名
  • 業種・規模のみ記載(「製造業・従業員500名規模」など)
  • 社内向け資料のみで使用、外部公開はしない

上から順に価値は高いものの、承認のハードルも上がります。最初から最上位を求めて断られるより、顧客が通せる範囲を確認して確実に1本を積むほうが、年間の本数は増えます。

事例に必ず入れる6要素

承諾を得たあと、取材で何を聞くかが決まっていないと、当たり障りのない感想文になります。新規獲得でも既存顧客向けでも使い回せる事例にするには、次の6要素を必ず押さえます。

要素聞くことこれが無いとどうなるか
導入前の状態どんな業務で、何に困っていたか読者が自分の状況と重ねられない
検討の経緯何を比較し、なぜ選んだか検討中の見込み顧客に刺さらない
導入時の障害社内調整・移行で何が大変だったか「うまくいった話」にしか見えない
具体的な使い方誰が、いつ、どう使っているか既存顧客の活用コンテンツに転用できない
変化導入前後で何が変わったか成果が伝わらない
次にやりたいこと今後どう広げたいか拡張提案の糸口が拾えない

とくに見落とされやすいのが導入時の障害です。順調だった話だけを載せた事例は宣伝に見え、検討者は身構えます。「社内の承認に2か月かかった」「既存データの移行で手間取った」といった記述があるほうが、同じ懸念を持つ読者には信頼されます。

最後の次にやりたいことも重要です。取材の場で顧客自身が語った「今後の構想」は、そのまま次の拡張提案の入り口になります。事例取材は、コンテンツ制作であると同時に、拡張提案のための情報収集の機会でもあります。

なお、営業担当が個別に紹介を依頼する場面の進め方——誰にどう声をかけ、どんな文面を送るか——は紹介営業(リファラル営業)の仕組み化ガイドで詳しく扱っています。本記事はマーケティング側で候補を作り、仕組みとして回す部分を担当範囲としています。実際の事例の見え方はDSR導入事例も参考になります。


既存顧客向けコンテンツの出し分けと閲覧シグナル検知

施策を設計しても、既存顧客向けのコンテンツが「全員に同じメールを送る」運用になっていると効果は限定的です。既存顧客は契約内容・利用状況・担当者が分かっているため、新規向けよりもはるかに精度の高い出し分けが可能です。

出し分けの軸は次の3つで足ります。

  • 契約プラン: 上位プラン利用者に下位機能の案内をしない、下位プラン利用者に上位機能の活用例を見せる
  • 利用状況: 定着していない顧客には基本の使い方、定着している顧客には応用と拡張
  • 役割: 現場担当者には操作と業務改善、決裁者には投資対効果と社内展開

そのうえで課題になるのが、出したコンテンツが実際に読まれたかどうかが分からない点です。メールの開封率までは分かっても、添付した資料のどのページが読まれたのか、経営層まで共有されたのかは通常見えません。

デジタルセールスルーム(DSR)は、顧客ごとに専用のページを用意して資料を共有し、誰がいつ何を見たかを把握できる仕組みです。既存顧客向けには次のような使い方ができます。

  • 顧客ごとのページに活用ガイドや事例を置き、閲覧状況から関心を読む
  • 上位プランの資料が閲覧されたことをアップセル検討のシグナルとして扱う
  • 新しい部署の担当者がページを開いたことで、社内展開の兆しを検知する
  • 更新前の資料が決裁者に閲覧されたかを確認し、フォローの要否を判断する

導線設計の章で挙げたシグナル表の項目の多くは、この閲覧データとして観測できます。「タイミングが重要」という一般論を、実際に観測できる指標に落とすための手段と考えると位置づけが明確になります。

出し分けを実運用に乗せるときの注意

出し分けの設計は、細かくするほど良いわけではありません。セグメントを増やすほどコンテンツの制作本数と運用工数が増え、更新が追いつかなくなります。古い情報が出し分けられている状態は、出し分けていない状態より害があります

現実的な運用としては、次の3点を守ると破綻しにくくなります。

  • セグメントは3〜5に留める: 増やすのは、既存のセグメントで明確に効果差が出てからにする
  • コンテンツの賞味期限を決める: 機能アップデート系は特に古くなりやすい。更新日と見直し時期をセットで管理する
  • 配信頻度の上限を決める: 施策ごとに担当が分かれていると、同じ顧客に複数の配信が重なる。顧客単位で月あたりの上限本数を決めておく

3点目は組織が大きくなるほど起きやすい事故です。CSからの活用案内、マーケからのセミナー告知、営業からの提案が同じ週に届くと、顧客からは「連携が取れていない会社」に見えます。誰が何を送ったかを顧客単位で確認できる状態にしておいてください。


KPI設計 — 施策と指標の対応、先行指標と遅行指標

カスタマーマーケティングのKPIとして挙げられるのは、NRR・解約率・LTVあたりが定番です。ただしこれらをそのまま日々の目標にすると、動かした施策と数字の因果が読めなくなります

理由は、これらが遅行指標だからです。NRRや解約率は結果が出るまでに数か月から1年かかり、しかも製品の品質・価格改定・市況といった施策以外の要因に大きく左右されます。

そこで、施策ごとの先行指標と、事業としての遅行指標を分けて置きます。

施策先行指標(週次〜月次で動く)遅行指標(四半期〜年次)
活用促進コンテンツ到達率・閲覧率・機能利用率の変化解約率
ユーザーコミュニティ参加者数・投稿数・アクティブ率解約率・推奨度
VOC収集回収数・改善に反映した件数満足度・推奨度
事例・レビュー獲得候補数・依頼数・承諾率・公開本数新規商談への寄与
拡張提案シグナル検知数・提案数・提案化率拡張売上・NRR

とくに事例獲得は、公開本数だけを追うと「頼みやすい顧客に何度も頼む」ことになりがちです。候補数 → 依頼数 → 承諾率 → 公開本数まで分解しておくと、詰まっている箇所が特定できます。候補が少ないのか、依頼できていないのか、断られているのかで打ち手はまったく違います。

各指標の計算方法と目安は個別記事に譲ります。NRRの計算式とSaaSでの水準はNRR(売上維持率)とは、解約率の種類別の計算方法と改善策はチャーンレート(解約率)とは、LTVの計算とLTV/CACの目安はLTVとはで扱っています。


業種別に変わる勘所

同じ施策でも、業種によって効き方と制約が変わります。代表的な違いを整理します。

業種特徴効きやすい施策注意点
SaaS・IT利用ログが取得でき、変化を捉えやすいシグナルに基づく拡張提案、活用促進機能追加の告知に偏り、成果の話が抜けやすい
製造業導入サイクルが長く、決裁層が多い事例獲得、社内展開を助ける資料情報公開の社内承認が厳しく事例化に時間がかかる
金融・保険コンプライアンス要件が厳しいVOC収集、活用促進事例の社名公開が通りにくい。匿名前提で設計する
人材・広告担当者の異動が多いオンボーディングの再実行、コミュニティ担当交代で利用が止まるため、引き継ぎ支援が要る
医療・公共予算年度の制約が強い更新前の効果整理、活用促進予算タイミングを外すと1年待ちになる

とくに注意したいのが、金融・保険や公共領域における事例の社名公開です。社名公開を前提に依頼すると高確率で断られるため、事例章で示した段階的な選択肢(社名・ロゴ公開/ロゴのみ/業種・規模のみ)のうちどこまでなら通せるかを、依頼の前に確認してください。監督官庁への届出や業界団体のガイドラインが絡む場合、社内の確認だけで数週間かかることも見込んでおきます。


フェーズ別の立ち上げ方

カスタマーマーケティングは、顧客数によって適切な打ち手が変わります。同じ施策でも、顧客が20社のときと300社のときでは費用対効果がまったく異なります。

フェーズ状況適した打ち手避けるべきこと
顧客数〜30社程度全社の状況を人が把握できる個別対応。CSが1社ずつ向き合う仕組み化・コミュニティ・ツール投資
30〜100社程度個別対応が回りきらなくなるセグメント分け、活用コンテンツの整備、事例獲得の開始いきなり専任組織を作ること
100社以上人力では取りこぼしが出るシグナル検知の仕組み化、施策の定常運用、コミュニティ検討先行指標を置かず遅行指標だけ追うこと

いずれのフェーズでも、ステップ0の判定条件(製品の安定・オンボーディングの確立・成果の言語化)が満たされていなければ、この表の右列に進む前にそちらが先になります。顧客数はあくまで打ち手を選ぶ軸であって、着手可否の判定軸ではありません。


よくある失敗パターン

ここまでに扱った論点を、現場で実際に起きる失敗の形に置き直します。5つとも構造的な原因があり、精神論では解決しません。

1. 新規向けの施策をそのまま既存顧客に流用する

配信リストに既存顧客が混ざったまま新規向けの訴求を送ると、「すでに使っている機能を勧められた」「導入を検討してくださいと言われた」といった事故が起きます。既存顧客を除外する、あるいは別の配信として設計することが最低条件です。信頼の毀損は、獲得の失敗よりも回復に時間がかかります。

2. 成果が出ていない顧客に、拡張提案や推奨依頼をする

利用が定着していない顧客への上位プラン提案は、押し売りとして受け取られるだけでなく、解約検討のきっかけになります。紹介・事例の依頼も同じ構造で、依頼の文面やインセンティブをいくら工夫しても、顧客側に語れる成果がなければ承諾されません。拡張提案には絞り込み3条件(成果・定着・予算タイミング)を、推奨依頼には「その顧客に語れる成果があるか」の確認を、それぞれ手前の工程として必ず挟んでください。

3. 担当が決まっていないまま施策だけ決める

「事例を増やす」「コミュニティを作る」と決めても、主管とその工数が確保されていなければ実行されません。施策一覧に主管と体制の列を入れるのは、この事故を防ぐためです。

4. 遅行指標だけを目標に置く

NRRだけを目標にすると、数か月間なにも動いていないように見えます。その間に施策が打ち切られるか、逆に効いていない施策が惰性で続きます。先行指標を必ずセットで置いてください。

5. 施策を増やしたまま棚卸ししない

新しい施策は追加されるのに、効果の薄い施策が止められないまま残る——これは時間が経つほど深刻になります。メールマガジン、コミュニティ、複数のコンテンツシリーズが並行し、どれも中途半端に更新される状態です。

四半期ごとに、各施策の先行指標を見て継続・改善・停止を判断してください。停止の判断ができる状態を作っておくことが、運用を続ける前提条件になります。


カスタマーマーケティングに関するよくある質問(FAQ)

カスタマーマーケティングとカスタマーサクセスの違いは何ですか?

対象の粒度と成果の測り方が違います。カスタマーサクセスは1社ずつの状況に応じて個別に支援し、その顧客が継続したかどうかで成果を測ります。カスタマーマーケティングは同じ条件を満たす顧客の「群」に対して同じ施策を届け、施策がどれだけ届き反応があったかで成果を測ります。実務では、特定の1社に合わせて内容を変えるならカスタマーサクセス、条件で括った複数社に同じものを配るならカスタマーマーケティング、と判断すると線引きが安定します。アップセル提案のようにどちらでも成立する領域は必ず残るため、自社ではどちらが持つかを事前に決めておくことが重要です。

花王カスタマーマーケティングやコカ・コーラ カスタマー マーケティングと関係はありますか?

関係ありません。花王グループカスタマーマーケティング株式会社、花王カスタマーマーケティング株式会社、コカ・コーラ カスタマー マーケティング株式会社、ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング株式会社はいずれも消費財メーカーの販売・営業を担ってきたグループ会社の社名で、本記事で解説しているマーケティング手法とは別のものです。検索結果でこれらの企業サイトや求人情報が上位に表示されるのは社名に同じ語が含まれるためで、企業情報や採用情報をお探しの場合は各社の公式サイトをご確認ください。

カスタマーマーケティングとCRMの違いは何ですか?

CRMは顧客情報を管理する仕組みやツールの概念であり、カスタマーマーケティングはその情報を使って既存顧客に対して行う活動を指します。つまり両者は対立する概念ではなく、CRMが土台、カスタマーマーケティングがその上で回す施策という関係です。契約内容や利用状況がCRMに整理されていないと、誰にどの施策を届けるかを決められないため、施策設計の前に顧客データが参照できる状態になっているかを確認してください。

ABMとカスタマーマーケティングはどう違いますか?

対象の単位が違います。ABMは狙いたいアカウント(企業)を先に選び、その1社に営業とマーケティングが一体でアプローチする手法です。新規開拓だけでなく、既存顧客の別部署・グループ会社への横展開にもそのまま使えます。一方カスタマーマーケティングは、同じ条件で括った顧客の群に対して同じ施策を届けます。既存の大口顧客に対しては両者が重なるため、その場合はアカウントプランで個社の攻略を設計し、カスタマーマーケティングは条件で括った顧客群に届ける施策を担当する、と役割を分けると整理しやすくなります。

専任担当は必要ですか?何人から始めるべきですか?

最初から専任を置く必要はありません。施策によって必要な体制は異なり、活用促進コンテンツや事例獲得は兼任1名とカスタマーサクセスからのネタ提供があれば始められます。一方でユーザーコミュニティは運営負荷が高く、投稿が生まれ続ける状態を維持するには専任0.5から1名程度を見込む必要があります。負荷が低く効果が読みやすい活用促進コンテンツと事例獲得から着手し、成果が見えてから体制を厚くする順序が現実的です。

顧客数が何社くらいから始めるべきですか?

目安として顧客数が30社を超えたあたりから検討価値が出ます。数十社以下で担当者が全社の状況を頭に入れられる段階では、セグメント配信より1社ずつ個別に向き合うほうが精度も速度も上回ります。30社から100社程度で個別対応が回りきらなくなった時点でセグメント分けと活用コンテンツの整備を始め、100社を超えて人力では取りこぼしが出る規模になったらシグナル検知の仕組み化に進む、という順序が無理がありません。

ツールは何が必要ですか?MAは必須ですか?

MAツールは必須ではありません。開始時点で必要なのは、契約内容と利用状況が参照できること、顧客をセグメントに分けられること、配信した内容の反応が分かることの3点で、多くの場合はCRMの標準機能と表計算ソフトで足ります。顧客数が増えて手作業での抽出と配信が追いつかなくなった段階で、はじめて自動化ツールを検討してください。ツールを先に導入しても、届ける中身と主管が決まっていなければ運用されません。

BtoCでも使えますか?

考え方は共通して使えますが、設計は変わります。BtoCは顧客数が多く1件あたりの単価が低いため、個別対応よりも自動化とセグメント配信の比重が高くなります。またBtoBのように担当者や決裁者が特定できないため、本記事で扱った「経営層が資料を閲覧した」といった組織内の動きを捉えるシグナル設計はそのままでは適用できません。一方で、成果が出た瞬間に推奨を依頼する、断られる理由を分類して対処するといった考え方はBtoCでも有効です。

最初に見るべきKPIは何ですか?

NRRや解約率といった遅行指標ではなく、施策の先行指標から置いてください。遅行指標は結果が出るまでに数か月から1年かかるうえ、製品品質や市況など施策以外の要因にも左右されるため、施策の良し悪しを判断できません。事例獲得であれば候補数、依頼数、承諾率、公開本数まで分解し、拡張提案であればシグナル検知数と提案数を置きます。そのうえで四半期以上の単位でNRRや解約率を確認し、先行指標の改善が遅行指標に接続しているかを検証する構成にします。


まとめ

カスタマーマーケティングは、定義そのものは各社でほぼ一致しており、そこで悩む必要はありません。実務で成否を分けるのは次の点です。

  • 役割分担を先に決める: カスタマーサクセス・ABM・営業との責任分界を、対象の粒度・成果の帰属・起動トリガーの3基準で整理する。とくにアップセル提案のような重なる領域を誰が持つかを事前に決めておく
  • タイミングを指標に落とす: 「適切なタイミングで」を、誰に・どのシグナルで・何を出すかの対応表に変換する。シグナルの多くは顧客の閲覧行動として観測できる
  • 事例獲得を分類して回す: 断られる理由を法務広報・工数・成果不明瞭・競合露出の4つに分け、それぞれに対処を用意する。依頼は自社の都合ではなく顧客に成果が出た直後に行う
  • 先行指標と遅行指標を分ける: NRRや解約率だけを目標にせず、施策ごとの先行指標を必ずセットで置く
  • やらない判断も持つ: 顧客数が少ない、製品が安定していない、オンボーディングが未確立、成果を1件も言語化できていない——いずれかに当てはまるうちは、仕組み化より個別対応と製品改善が先

既存顧客に向き合う施策は、外したときに失うものが新規向けより大きい領域です。だからこそ、勘ではなく観測できるシグナルに基づいて動く設計が効きます。

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