ステークホルダーマップとは|作り方5ステップとコピペできるテンプレート・記入例【営業・プロジェクト向け】
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ステークホルダーマップとは|作り方5ステップとコピペできるテンプレート・記入例【営業・プロジェクト向け】

著者: Terasu 編集部

ステークホルダーマップとは、案件やプロジェクトに関わる人(ステークホルダー)を洗い出し、それぞれの「役割」「影響力」「スタンス(推進・中立・懐疑)」と、人と人の関係を1枚に整理した図または表のことである。誰が決め、誰が動かし、誰が止めうるのかを見える化し、次に誰へ何をするかを決めるために使う。

ステークホルダーマップは、「関係者の名前を並べた組織図」ではありません。組織図が示すのは指揮命令系統ですが、実際の意思決定は、肩書きの低い技術担当の一言や、最後に出てくる審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)の確認で止まったり動いたりします。マップは、その「実際の動き方」を書き残して、自分とチームの次の行動を決めるための道具です。

この記事では、定義と作り方5ステップのあと、そのままコピーして使えるテンプレート(表形式)と記入例を載せています。後半は、営業や受託案件(クライアントワーク)で使うときの具体論——稟議・決裁フローの書き方、キーマンの見つけ方、推進者(チャンピオン)に聞く質問——と、マップが古くなって役に立たなくなる失敗例を扱います。

この記事の要点

  • ステークホルダーマップは「役割 × 影響力 × スタンス × 関係」を1枚にしたもの。組織図とは別物で、実際に誰が決め、誰が止めうるかを書く
  • 作り方は5ステップ:目的を決める → 洗い出す → 役割を付ける → 影響力とスタンスを評価する → 次のアクションと担当を決める
  • テンプレートは「次のアクション」「担当」「最終接点」の列が肝。評価だけの表は1週間で使われなくなる
  • パワー・インタレスト・グリッド(影響力×関心の4象限) は、関わり方の濃淡を決める補助として使う
  • 営業では、決裁者・推進者・技術評価者・審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)・利用部門・反対者の6役割 で空欄を探すと、抜けているキーマンが見つかる
  • マップは「会ってわかった事実」で更新する。推測で埋めた欄は推測と明記する

ステークホルダーマップとは — 何を書き、何に使うのか

ステークホルダーマップは、案件の関係者について「誰が・どの立場で・どれくらいの力を持ち・どちら向きか」を記録し、関与の打ち手を決めるための整理表です。プロジェクト管理の文脈では「ステークホルダー分析」、営業の文脈では「組織図の攻略」「キーマンマップ」と呼ばれることもあります。

ステークホルダー(stakeholder)という言葉は範囲が広い点に注意が必要です。PMIのプロジェクトマネジメント知識体系ガイド『PMBOK®ガイド』第6版では、ステークホルダーを「プロジェクトに影響を与えたり、プロジェクトによって影響を受けたりする可能性のある個人やグループ、または組織」と定義しています(PMI日本支部『PMBOK®ガイド第6版 紹介シリーズ 第6回 ステークホルダー・マネジメント』2020年)。つまり、「決める人」だけでなく「影響を受ける人」も含まれます。導入後に毎日ツールを使う現場担当者が、商談では一度も出てこないまま反対に回る——というのは、この「影響を受ける人」を書き漏らしたときに起きます。

マップに書く4つの要素

要素書く内容なぜ必要か
役割決裁者・推進者・技術評価者・法務/購買など誰に何を渡せば前に進むかが決まる
影響力高・中・低限られた時間をどこに使うかが決まる
スタンス推進・中立・懐疑誰に説明や説得が必要かが決まる
関係「報告する」「相談相手」「対立」など人と人の線直接会えない人に、誰経由で届くかがわかる

組織図・ステークホルダー登録簿との違い

  • 組織図:公式の指揮命令系統。スタンスや実際の影響力は書かれていない
  • ステークホルダー登録簿(プロジェクト管理の用語):関係者の一覧表。PMBOK第6版の「ステークホルダーの特定」プロセスでは、特定した関係者をこの登録簿に登録するとされています(前掲PMI日本支部資料)
  • ステークホルダーマップ:一覧に「関係の線」と「評価」「次の行動」を加えて、判断に使える形にしたもの

実務では、表(登録簿に近い形)と図(関係の線を引いた形)の両方を持つのが扱いやすいです。表は抜け漏れの確認と更新に、図は関係性の理解とチームへの共有に向いています。

ステークホルダーマップが必要になる場面

ステークホルダーマップが効くのは、関係者が5人を超え、自分が全員と直接話せていない案件です。関係者が2〜3人で全員と日常的に話している案件なら、マップを作る手間のほうが大きくなります。

BtoBの購買は、この条件にほぼ当てはまります。Gartnerが2024年8〜9月にB2Bバイヤー632人を対象に行った調査を紹介した発表では、購買グループは「5〜16人、最大4つの部門にまたがる」とされ、購買チームの74%が意思決定の過程で「不健全な対立」(目的の食い違い、進め方の不一致、外部の意思決定者による覆し)を示したと報告されています。また、合意に至った購買グループは、質の高い取引だったと答える割合が2.5倍でした(Gartner プレスリリース, 2025年5月7日)。

営業担当が1人の窓口とだけ話している状態では、この「5〜16人」のうち誰がどちら向きかは見えません。マップは、見えていない人を「見えていない」と明示するための道具でもあります。

具体的には、次のような場面で作ります。

  • 営業:初回商談で「検討中です」と言われ、その先の決め方が見えないとき。稟議が必要な金額の提案をするとき
  • 受託案件・クライアントワーク:発注担当者と、成果物を実際に使う部門・承認する役員が別にいるとき
  • 社内プロジェクト:複数部署の協力が要るシステム導入や業務変更を進めるとき

ステークホルダーマップの作り方5ステップ

作り方は「目的を決める → 洗い出す → 役割を付ける → 影響力とスタンスを評価する → 次のアクションを決める」の5ステップです。最初の1枚は30分以内で作り、会うたびに直していくのが現実的です。

ステップ1:マップの目的とゴールを1行で決める

最初に「このマップで何を達成したいか」を1行で書きます。目的が違うと、書くべき人も変わるからです。

  • 例:「[会社名]で、[提案内容]の導入を[月]までに稟議承認まで進める」
  • 例:「[プロジェクト名]の要件定義を、利用部門の合意つきで[月]までに確定させる」

目的に「期限」と「決まった状態」を入れておくと、ステップ5で逆算がしやすくなります。

ステップ2:関係者を洗い出す(決める人・動かす人・影響を受ける人)

名前がわかっている人だけでなく、まだ名前がわからない役割も空欄で書き出します。空欄こそが、次に聞くべきことのリストになります。

洗い出しの問いは3つです。

  1. 決める人:最終的に「はい」と言う人は誰か。予算を持つのは誰か
  2. 動かす人:社内で提案を説明し、推してくれる人は誰か。評価・比較をする人は誰か
  3. 影響を受ける人・止められる人:導入後に使う人、運用を担う人、契約・セキュリティ・購買の確認をする部門はどこか

名刺交換した人、議事録に出てきた名前、メールのCCに入っている人を順に拾うと、漏れが減ります。

ステップ3:役割を付ける

営業・受託案件では、次の6役割で分類すると空欄が見つけやすくなります。1人が複数の役割を持つこともあります。

役割定義よくある肩書きの例
決裁者最終的に承認し、予算を出す人部長、事業部長、役員
推進者(チャンピオン)社内で提案を推し、自分の言葉で説明してくれる人課長、プロジェクトリーダー
技術評価者機能・セキュリティ・既存システムとの相性を評価する人情報システム担当、エンジニア
審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)契約・取引条件・セキュリティ審査などの関門を持つ部門法務、購買、情シス(セキュリティ審査担当)、経理
利用部門導入後に日常的に使う人現場担当者、チームリーダー
反対者導入に反対、または別案を推している人役職はさまざま

「決裁者」の見極め方は、決裁者とは?見極め方と巻き込む5ステップで詳しく扱っています。チャンピオンの定義と見分け方は、MEDDPICCの解説の「Champion」の項も参考になります。

ステップ4:影響力とスタンスを評価する

影響力は「高・中・低」、スタンスは「推進・中立・懐疑」の3段階で十分です。細かい5段階評価は、判断の根拠が薄いまま数字だけが精密に見えるので、最初は避けます。

評価には根拠を1行添えます。

  • 影響力「高」:「予算権限あり」「前回の類似案件で最終判断した」など
  • スタンス「懐疑」:「2回目の商談で『今の運用で困っていない』と発言」など

根拠が書けない評価は「推測」と明記します。推測と事実を混ぜると、チームで共有したときに推測が事実として扱われ始めます。

プロジェクト管理では、スタンスをもう少し細かく見る方法もあります。PMBOK第6版で紹介される「ステークホルダー関与度評価マトリックス」は、関係者を「不認識・抵抗・中立・支持・指導」の5段階に分類し、主な関係者ごとに現状を評価したうえで目標とする関与度を定める使い方が紹介されています(前掲PMI日本支部資料)。「現状」と「目標」を並べて書くという考え方は、営業のマップにもそのまま使えます。

ステップ5:次のアクションと担当・期限を決める

最後に、1人ずつ「次に何をするか」「誰がやるか」「いつまでに」を書きます。ここが空欄のマップは、分析で終わって誰の行動も変えません。

  • 懐疑的で影響力が高い人 → 懸念を直接聞く場を、推進者経由でつくる
  • 中立で影響力が高い人 → その人の関心事に合わせた資料を1枚渡す
  • 推進的で影響力が低い人 → 社内説明に使える材料を渡し、上への橋渡しを頼む
  • 役割が空欄 → 推進者に「この判断は誰がしますか」と聞く

コピペできるステークホルダーマップのテンプレート

以下はそのままスプレッドシートやドキュメントに貼って使えるテンプレートです。列は「誰か」「どんな立場か」「どう評価したか」「次に何をするか」の4ブロックに分かれています。

列書く内容記入のコツ
氏名名前(不明なら「未特定」)空欄にせず「未特定」と書く
役職・部署名刺や署名の表記兼務があれば両方
役割決裁者/推進者(チャンピオン)/技術評価者/審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)/利用部門/反対者複数可
影響力高・中・低根拠を根拠欄に1行
スタンス推進・中立・懐疑推測なら「(推測)」を付ける
根拠影響力・スタンスをそう判断した理由発言や行動を1行で(例:「予算権限あり」「今の運用で困っていないと発言」)
関心事その人が気にしていること本人の発言をそのまま短く引用
最終接点最後に直接やり取りした日と手段30日以上空いたら要注意
次のアクション次にすること動詞で書く(「聞く」「送る」「依頼する」)
担当自社側の担当者1人に決める

テンプレート(表形式・コピー用)

【ステークホルダーマップ】
案件名:[案件名]
目的:[会社名]で[提案内容]を[月]までに[稟議承認/契約/要件確定]まで進める
最終更新:[YYYY-MM-DD] 更新者:[氏名]

| 氏名 | 役職・部署 | 役割 | 影響力 | スタンス | 根拠 | 関心事 | 最終接点 | 次のアクション | 担当 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| | | 決裁者 | | | | | | | |
| | | 推進者(チャンピオン) | | | | | | | |
| | | 技術評価者 | | | | | | | |
| | | 審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理) | | | | | | | |
| | | 利用部門 | | | | | | | |
| | | 反対者 | | | | | | | |

関係(人と人の線):
- [Aさん] →(報告)→ [Bさん]
- [Cさん] ←(相談相手)→ [Dさん]
- [Eさん] ×(別案を推進)× [Fさん]

未特定の役割と、それを聞く相手:
- [役割]:[誰に・いつ聞くか]

役割の行は最初から6行入れてあります。埋まらない行があること自体が情報です。「審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)」の行が空欄のまま商談が進んでいるなら、最後に契約審査やセキュリティチェックで止まる可能性が高いと読めます。

テンプレート(図で描くときのルール)

表だけで関係がつかみにくいときは、ホワイトボードや作図ツールで図にします。描き方のルールを決めておくと、チームの誰が描いても同じ読み方ができます。

【図のルール】
・1人=1枚のカード(氏名/役割/影響力/スタンス)
・カードの大きさ or 位置:影響力が高いほど上
・カードの色:推進=緑、中立=灰、懐疑=赤
・線:人と人の関係。線の上にラベルを書く(報告/相談/対立/紹介者 など)
・点線のカード:まだ会っていない人、名前が未特定の役割
・付箋:会議で出た発言や注意点(日付つき)

ステークホルダーマップの記入例

ここでは、BtoBの業務システム導入を提案している営業案件を想定した例を示します。社名・人物は架空のプレースホルダーです。

例:[会社名]への[業務システム]導入提案(目的:[月]末の経営会議で稟議承認)

氏名役職・部署役割影響力スタンス根拠関心事最終接点次のアクション担当
[氏名A]事業部長決裁者高中立(推測)予算権限あり(推進者経由の情報、未確認)「投資対効果を数字で見たい」(推進者経由で聞いた発言)未接触推進者に同席を依頼し、20分の説明枠をもらう[営業責任者]
[氏名B]業務企画課長推進者(チャンピオン)中推進自ら商談を設定し、資料提供を依頼してきた「現場の二重入力をなくしたい」[日付] 商談稟議書の下書きに使う費用対効果の表を送る[営業担当]
[氏名C]情報システム部技術評価者中懐疑商談で認証連携について懸念を発言「既存の認証基盤と連携できるか」[日付] メール技術担当同席で質疑の場を設定する[技術担当]
未特定法務 or 購買審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)中不明未接触のため根拠なし不明未接触推進者に契約審査の流れと所要期間を聞く[営業担当]
[氏名D]現場チームリーダー利用部門低推進デモ後「使いたい」と発言「入力の手間が減るなら使いたい」[日付] デモ試用アカウントでの評価を依頼する[営業担当]
[氏名E]別部署の課長反対者(推測)中懐疑(推測)別ツールを推している、と推進者から聞いた(未確認)別ツールを推している、と推進者から聞いた未接触推進者に、懸念の内容と誰に影響するかを聞く[営業担当]

この例から読み取れることは3つです。

  1. 決裁者と一度も会っていない。スタンスも推測のままなので、ここが最大のリスクです
  2. 法務・購買の関門が未特定。稟議が通ったあとで契約審査に何週間かかるかわからず、期限の逆算ができません
  3. 反対者の情報が全部推測。推進者から聞いた話だけで判断しているので、事実を確認する必要があります

このように、記入例は「うまくいっている状態」を見せるものではなく、空欄と推測から次の打ち手を出すためのものです。

パワー・インタレスト・グリッドで関わり方を決める

パワー・インタレスト・グリッドは、関係者を「影響力(パワー)」と「関心(インタレスト)」の高低で4つに分け、それぞれへの関わり方の濃淡を決める図です。ステークホルダーマップの「影響力」評価を、行動方針に変換するときに使います。

この枠組みは一般にメンデロウ(A. L. Mendelow)の名とともに紹介されますが、出典年は文献によって表記が揺れています。Association for Information Systems(AIS)の電子図書館で確認できる原著論文は1981年のICIS会議録に収録された「Environmental Scanning--The Impact of the Stakeholder Concept」です(AIS eLibrary)。厳密に引用する必要がある場合はこの原典を確認してください。

4象限の呼び方は、NN/gの解説で紹介されている形に合わせると次のとおりです。

象限影響力関心関わり方営業案件での例
Manage Closely(重点的に関わる)高高定期的に直接会い、判断材料を先回りして渡す決裁者、関心の高い部長
Keep Satisfied(満足を保つ)高低要点だけを短く、必要なときに確実に届ける最終承認だけする役員、法務
Keep Informed(情報を届ける)低高進捗を共有し、社内の声として味方になってもらう利用部門の担当者
Monitor(様子を見る)低低最低限の共有にとどめ、変化があれば見直す間接的に関わる部門

営業案件で特に注意したいのは 「影響力は高いが関心が低い」象限 です。たとえば、契約書のレビューだけを担当する法務や、最終承認だけをする役員は、商談の場にはほとんど出てきません。関心が低いので自分から情報を取りにも来ず、最後に「聞いていない」「この条件では通せない」で止まります。この象限の人には、早い段階で「いつ・何を確認してもらう必要があるか」を推進者経由で確かめておくのが有効です。

グリッドは「関わり方の濃淡」を決める道具で、「誰がどちら向きか」は教えてくれません。スタンス(推進・中立・懐疑)は、マップの表側で別に管理します。

営業・受託案件でのステークホルダーマップの使い方

営業や受託案件(クライアントワーク)では、ステークホルダーマップは「稟議・決裁フローの可視化」「キーマンの特定」「推進者との作戦会議」の3つに使うと効果が出ます。どれも、窓口担当者1人との関係に依存しないためのものです。

受託案件の進め方そのものについては、クライアントワークとはで整理しています。

稟議・決裁フローをマップに書き込む

日本企業との取引では、決裁者が1人で決めるのではなく、稟議書が複数の承認者を順に回ることが多くあります。この場合、マップに「人」だけでなく**「承認の順番」と「各段階で見られる観点」**を書き足します。

【稟議・決裁フロー(記入用)】
起案者:[氏名/部署] → 稟議書を書く人。多くの場合、推進者
①課長承認:[氏名] 見る観点:[業務上の必要性]
②部長承認:[氏名] 見る観点:[予算内か/費用対効果]
③合議:[情報システム部/法務/経理] 見る観点:[セキュリティ/契約条件/支払条件]
④最終決裁:[役員/経営会議] 見る観点:[全社方針との整合]
開催日・締切:[経営会議の日付]/[稟議書の提出締切]
所要期間の目安:[推進者に聞いた日数]

ポイントは**「合議」の段階**です。承認ラインとは別に、情報システム部や法務が「確認」として入るケースがあり、ここは商談の場に出てこないため抜けやすい部分です。稟議書に何を書けば通りやすいかは、顧客の稟議を通す5つの材料とテンプレートで詳しく解説しています。

キーマンの見つけ方

キーマンは、肩書きではなく「その人が首を縦に振らないと進まない人」です。次の3つの問いで探します。

  1. 過去の類似案件で最後に判断したのは誰か(前例が最も確かな手がかりです)
  2. 提案内容に反対したとき、案件を止められるのは誰か(止める力は、進める力より見えやすい)
  3. 推進者が「この人に聞いてみます」と名前を出すのは誰か(推進者が気にしている相手は、影響力が高いことが多い)

窓口担当者が「私が決めます」と言っても、予算額によって決裁権限が変わることはよくあります。金額の目安を伝えたうえで「この金額だと、どなたの承認が必要になりますか」と聞くと、実際の決裁ラインが出てきやすくなります。

複数の関係者と同時に関係をつくる進め方は、マルチスレッド営業の実践方法も参考にしてください。

推進者(チャンピオン)に聞く質問

推進者は、マップの空欄を埋めてくれる最も重要な情報源です。ただし、推進者の見立ても推測を含むので、聞いた内容は「推進者経由」と記録します。

【推進者に聞く質問(そのまま使える例)】

■ 決め方を知る
・「今回のような導入は、社内でどのような流れで決まることが多いですか」
・「この金額感ですと、どなたの承認まで必要になりますか」
・「前回、似たツールやサービスを導入されたときは、どなたが最終的に判断されましたか」

■ 関門を知る
・「契約書の確認やセキュリティのチェックは、どの部署がどれくらいの期間で行いますか」
・「稟議の締切や、決裁が出る会議の日程を教えていただけますか」

■ スタンスを知る
・「[氏名]様は、今回の件をどのように見ていらっしゃいそうですか」
・「社内で、この導入に慎重な方がいらっしゃるとしたら、どのような点を気にされていますか」
・「別の選択肢を検討されている方はいらっしゃいますか」

■ 推進者自身を支える
・「社内でご説明いただく際に、あると助かる資料はありますか」
・「[氏名]様に直接ご説明する機会をいただくことは可能でしょうか。その場合、[推進者の氏名]様もご同席いただけますか」

最後の質問は大切です。推進者を飛び越えて決裁者に接触すると、推進者の立場を損ねることがあります。推進者と一緒に会いに行く形を提案すると、推進者にとっても社内での評価につながります。推進者の見極め方はGongのチャンピオン追跡研究から学ぶ|社内推進者を見極める方法でも扱っています。

ヒアリング全体の項目を整理したい場合は、営業ヒアリングシート無料テンプレと組み合わせると、マップの「関心事」欄が埋めやすくなります。

マップを「共同の計画」につなげる

マップで見えた関係者と関門は、顧客と一緒に作る進行計画(ミューチュアルアクションプラン)に落とすと、実際のスケジュールになります。たとえば「法務の契約審査:[期間]」「経営会議:[日付]」を計画に入れておけば、推進者も社内で進捗を説明しやすくなります。書き方はミューチュアルアクションプラン(MAP)テンプレートを参照してください。

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プロジェクト管理でのステークホルダーマップ

プロジェクト管理では、ステークホルダーマップは「関係者を特定し、関与の度合いを計画・管理・監視する」ための道具として使われます。営業との違いは、ゴールが「受注」ではなく「プロジェクトの成功」である点と、社内の関係者が多く含まれる点です。

PMBOK第6版では、プロジェクト・ステークホルダー・マネジメントに4つのプロセス——「ステークホルダーの特定」「ステークホルダー・エンゲージメントの計画」「ステークホルダー・エンゲージメントのマネジメント」「ステークホルダー・エンゲージメントの監視」——が用意されています(前掲PMI日本支部資料)。同資料は、この中で「ステークホルダーの特定」が最も大切なプロセスだと述べ、途中で見つかった関係者も登録簿に追加し続けるよう勧めています。

営業のマップと同じテンプレートを使う場合は、役割の6分類を次のように読み替えると使いやすくなります。

営業の役割プロジェクトでの読み替え例
決裁者プロジェクトオーナー、スポンサー
推進者(チャンピオン)各部署の窓口・キーパーソン
技術評価者アーキテクト、情報システム部門
審査部門(法務・購買・セキュリティ・経理)監査、コンプライアンス、セキュリティ部門
利用部門業務部門、エンドユーザー
反対者変更で業務負担が増える部門、別案の推進者

マップの更新の仕方

ステークホルダーマップは作った瞬間から古くなります。更新のタイミングを「会ったあと」「人が変わったとき」「フェーズが変わるとき」の3つに決めておくと、形骸化を防げます。

  • 会ったあと(その日のうち):スタンス・関心事・最終接点・次のアクションを更新する。議事録を書くついでに行う
  • 人が変わったとき:異動・退職・新しい関係者の登場。特に推進者の異動は案件の前提が変わるので、マップ全体を見直す
  • フェーズが変わるとき:提案 → 稟議 → 契約 → 導入と進むごとに、主役になる関係者が変わる。契約段階では法務・購買、導入段階では利用部門の行が重要になる

更新するときは、変えた理由を1行残します(例:「[日付] 懐疑→中立。デモ後『認証の件は解決した』と発言」)。理由のないスタンス変更は、チームで共有したときに信頼されません。

週1回の案件レビューでマップを開き、「最終接点が30日以上前の、影響力が高い人」を確認するだけでも、止まりかけている関係に早く気づけます。案件が止まる理由の整理は、商談が止まる本当の理由も参考になります。

よくある失敗例

ステークホルダーマップが役に立たなくなる原因は、ほとんどが「作り方」ではなく「使い方」にあります。代表的な5つを挙げます。

1. 窓口担当者の見立てをそのまま書く

窓口担当者が「部長も前向きです」と言っても、それは窓口担当者の推測です。直接確かめていないスタンスには「(推測)」と付け、確かめる手段をアクション欄に書きます。

2. 肩書きで影響力を決める

役員だから影響力が高い、担当者だから低い、とは限りません。現場のベテラン担当者の「使いにくい」の一言で導入が見送られることもあります。影響力は「過去にその人の判断で何が決まったか」で評価します。

3. 反対者を書かない

反対者の行を空けたままにすると、「反対者はいない」という誤った安心につながります。反対者がいない案件はまれです。わからない場合は「未特定」と書き、推進者に「慎重な方はいらっしゃいますか」と聞きます。

4. 次のアクションが空欄

評価だけ書いたマップは、1回作って終わります。1人につき1つ、動詞で書けるアクションを必ず入れます。

5. 作った本人しか見ていない

営業担当者だけが持つマップは、担当者の頭の中と変わりません。上司・技術担当・カスタマーサクセスなど、案件に関わる自社側のメンバーと共有して初めて、「この人には技術担当から話してもらおう」といった分担ができます。

一方で、マップを顧客にそのまま見せるときは注意が必要です。「懐疑」「反対者」といった評価を本人や関係者が見れば、関係を損ねます。社内用と、顧客と共有する用(役割と進行計画だけを載せたもの)は分けて管理します。

Terasuのステークホルダーマップでできること

ここまでの内容は、スプレッドシートや紙でも実践できます。チームで共有しながら更新し続けたい場合は、ツールを使う選択肢もあります。

Terasu(テラス)は、顧客との提案・案件を進めるための共有ワークスペース(デジタルセールスルーム)で、案件ごとの「ルーム」の中にステークホルダーマップを持てます。本記事で紹介した考え方との対応は次のとおりです。

  • 役割・影響力・スタンスの設定:各関係者(ノード)に役割(決裁者・推進者・技術評価者など)、影響度(高・中・低)、スタンス(推進・中立・懐疑)を設定できます
  • 関係の線とラベル:関係者同士をドラッグ&ドロップでつなぎ、線にラベル(例:「指揮」「連携」)を付けられます
  • 付箋メモ:マップ上に付箋を貼り、会議メモや注意事項を残せます
  • 社内用と顧客共有用の使い分け:マップはデフォルトで社内専用です。提案書などのページに閲覧専用で埋め込んだ場合のみ、そのページの閲覧権限に従って顧客にも見せられます
  • 行動へのつなぎ込み:タスクに関係者を紐付けたり、ルームのメッセージで関係者を@メンションしたりできます
  • スタンスは担当者が判断:スタンスは自動判定ではなく、担当者が商談や閲覧データを踏まえて手動でタグ付けします

ステークホルダーマップはSolo・Business・Enterpriseの各プランで使えます(無料プランとStarterプランには含まれません)。通常の14日間無料トライアルはBusinessプランの機能をフルに試せるため、トライアル期間中はステークホルダーマップも利用できます。

よくある質問(FAQ)

ステークホルダーマップとは何ですか?

案件やプロジェクトに関わる人を洗い出し、それぞれの役割・影響力・スタンス(推進・中立・懐疑)と、人と人の関係を1枚に整理した図または表です。誰が決め、誰が動かし、誰が止めうるかを見える化し、次に誰へ何をするかを決めるために使います。

ステークホルダーマップと組織図の違いは何ですか?

組織図は公式の指揮命令系統を示すもので、各人のスタンスや実際の影響力は書かれていません。ステークホルダーマップは、肩書きに関係なく「実際に誰が判断に影響するか」「誰が推進・懐疑か」「誰経由で誰に届くか」を記録し、次の行動を決めるために使います。

ステークホルダーマップはExcelやスプレッドシートで作れますか?

作れます。本記事のテンプレートの列(氏名、役職・部署、役割、影響力、スタンス、関心事、最終接点、次のアクション、担当)をそのまま貼り付ければ使えます。関係の線を表すのが難しい場合は、「関係」の欄を別に設けて「Aさん→(報告)→Bさん」のように書くか、図を別に描きます。

パワー・インタレスト・グリッドとは何ですか?

関係者を影響力(パワー)と関心(インタレスト)の高低で4つに分け、関わり方の濃淡を決める図です。影響力も関心も高い人には重点的に関わり、影響力は高いが関心が低い人には要点を確実に届ける、といった方針を決めます。一般にメンデロウ(A. L. Mendelow)の名とともに紹介されます。

影響力やスタンスはどうやって判断すればよいですか?

影響力は肩書きではなく「過去にその人の判断で何が決まったか」「その人が反対したら案件が止まるか」で判断します。スタンスは本人の発言や行動から判断し、根拠を1行添えます。本人と話していない場合や、他の人から聞いた話だけの場合は「(推測)」と明記します。

ステークホルダーマップはどのくらいの頻度で更新すべきですか?

関係者と会ったあと、関係者が異動・交代したとき、案件のフェーズが変わったときの3つのタイミングで更新するのが目安です。加えて、週1回の案件レビューで「最終接点が長く空いている影響力の高い人」がいないかを確認すると、止まりかけている関係に早く気づけます。

ステークホルダーマップを顧客に見せてもよいですか?

スタンスや「反対者」といった評価を含むマップは、社内用にとどめるのが安全です。顧客と共有する場合は、役割と進行計画など、本人が見ても問題のない情報だけを載せた別版を用意します。

関係者の名前がわからない場合はどうすればよいですか?

役割の行だけを作り、氏名を「未特定」と書いておきます。そのうえで、推進者や窓口担当者に「この判断はどなたがされますか」「契約書の確認はどの部署が行いますか」と聞き、埋まったら更新します。空欄は、次に聞くべきことのリストとして使えます。

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