
覚書とは?契約書との違い・書き方と印紙の要否|変更覚書の記入例つき
覚書(おぼえがき)とは、当事者が話し合って決めたことを、後から確かめられるように書面にしたものである。ビジネスでは、すでに結んだ契約の一部を変えるときや、契約書を作る前に基本的な方向を確かめるときによく使われる。「覚書」という表題でも、当事者が合意した内容が書かれ、双方が署名や押印をしていれば、契約書と同じように当事者を拘束する。印紙税も表題ではなく中身で判断され、請負の契約金額や納期を変える覚書を紙で交わすと、課税文書になる。
この記事のポイント(TL;DR)
- 覚書は「軽いメモ」ではありません。民法522条は、契約は申込みと承諾で成立し、書面の方式は原則として問わないと定めています。覚書に合意の内容が書いてあれば、表題が覚書でも契約として扱われます。
- 契約書・覚書・合意書の違いは、法律上の効力ではなく、使う場面の慣習です。念書は当事者の一方だけが差し入れる書面、議事録は打ち合わせの記録で、それだけでは双方の合意の証拠として弱くなりがちです。
- 受託・制作の案件で覚書が一番役に立つのは、契約後の追加依頼・仕様変更・金額や納期の変更です。元の契約(原契約)を特定し、変える条項の「変更前」と「変更後」を書き、「その他は原契約のとおり」で締めます。
- 印紙税では、覚書も念書も「契約書」に含まれます(印紙税法 課税物件表の通則5)。請負の契約を変える覚書は、内容・期日・契約金額・支払方法などの「重要な事項」を変えるときだけ課税され、窓口の変更などは課税文書に当たりません(国税庁 印紙税法基本通達 第17条・別表第2)。
- 金額を変える覚書は、原契約を特定していれば増える分だけが記載金額になります。300万円の制作契約を50万円増やす覚書なら、印紙は200円です。原契約を特定せず「350万円とする」とだけ書くと、350万円が記載金額になり2,000円になります(同 第30条)。
- 紙を渡さず、PDFや電子契約サービスで交わすだけなら、課税文書の作成に当たらないとする国税局の文書回答があります。
- 記入例(追加依頼で金額と納期が変わる変更覚書、窓口と報告の頻度を変える覚書)を、そのまま写せる形で用意しました。
どこから読むか
| 当てはまる状況 | 先に読むところ |
|---|---|
| 覚書の意味と、契約書との違いだけ知りたい | 覚書とはと違いの比較表 |
| 契約後に追加の依頼や仕様の変更が入った | 覚書を使う場面と記入例 |
| これから覚書を作る | 覚書の書き方 |
| 印紙を貼るべきか迷っている | 収入印紙は要るか |
| 議事録やメールで済ませてよいか迷っている | 議事録やメールで済む合意との分け方 |
覚書とは|読み方・意味と法的な効力
覚書とは、当事者が合意した内容を書面にして残したもので、読み方は「おぼえがき」です。もともとは「忘れないように書き留めたもの」という意味ですが、ビジネスで交わす覚書は、取引の条件や決めごとを双方が確認した書面を指します。
覚書が使われるのは、主に次の3つの場面です。
- 契約の内容を変える・付け足す:すでに結んだ契約書の金額や納期、業務の範囲を変えるとき。「変更覚書」「変更契約書」とも呼ばれます
- 契約書で決めきれなかった細目を決める:基本契約で枠だけを決め、単価や報告の方法などを別の覚書で決めるとき
- 本契約の前に方向を確かめる:契約書を作る前に、取引の進め方や秘密の扱いなどを先に確かめておくとき。「基本合意書」と同じ役割です
効力は表題ではなく中身で決まる
覚書に法的な効力があるかどうかは、表題ではなく、書かれている中身で決まります。民法522条1項は、契約は契約の内容を示して締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して相手方が承諾をしたときに成立するとし、同条2項は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を必要としないと定めています(e-Gov法令検索 民法)。
つまり、覚書に「何を・いくらで・いつまでに」といった合意の内容が書かれ、双方が署名や記名押印をしていれば、それは契約が成立した(または変わった)ことを示す書面です。表題を「契約書」にするか「覚書」にするかで、当事者を拘束する力に差はありません。
反対に、「検討します」「前向きに進めます」といった方向だけを書いた覚書は、具体的な義務を定めていないため、守らなくても責任を問いにくい書面になります。本契約の前に交わす覚書で、どこまでを約束し、どこからを未確定にするのかは、覚書の中で言葉にしておく必要があります。
印紙税の扱いも同じ考え方です。国税庁は、課税文書に当たるかどうかは文書に記載されている内容に基づいて判断し、その文書の名称や呼称、形式的な記載文言ではなく、記載されている文言などの実質的な意味をくみ取って判断するとしています(国税庁 No.7100 課税文書に該当するかどうかの判断)。「覚書なら印紙は要らない」とは言えない理由は、後の章で詳しく説明します。
覚書・契約書・念書・合意書・議事録の違い
覚書・契約書・合意書は、法律上は同じ「当事者の合意を示す書面」で、違いは使う場面の慣習です。念書と議事録は、誰が作り誰が署名するかが違うため、証拠としての強さが変わります。5つを並べると次のとおりです。
| 書類 | 誰が作り、誰が署名するか | 主な使われ方 | 合意の証拠としての強さ |
|---|---|---|---|
| 契約書 | 当事者の双方が署名・記名押印する | 取引の条件を最初に一通り決める | 強い |
| 覚書 | 当事者の双方が署名・記名押印する | 契約の変更・補足、細目の取り決め、本契約前の確認 | 中身しだいで契約書と同じ |
| 合意書 | 当事者の双方が署名・記名押印する | 紛争の解決や、特定の事項についての合意 | 中身しだいで契約書と同じ |
| 念書 | 当事者の一方だけが署名し、相手に差し入れる | 一方が約束や事実の確認を差し出す | 署名した側の約束の証拠になる |
| 議事録 | 打ち合わせの記録者が作る。署名がないことが多い | 打ち合わせで出た意見・決定・宿題の記録 | 相手の確認がないと弱くなりがち |
契約書と覚書は、役割の違いで使い分ける
実務では、取引の全体を決める書面を「契約書」、その一部を変えたり補ったりする書面を「覚書」と呼ぶことが多くなっています。どちらも双方が署名するので、効力の差ではなく「どちらが元の書面か」を表す呼び分けと考えると分かりやすくなります。
覚書は原契約を前提にした書面なので、覚書だけを読んでも全体の条件は分かりません。原契約が何か、どの条項をどう変えたのかを、覚書の中で特定しておくことが大切です。原契約と覚書の関係を、後の章で使う記入例で図にすると次のとおりです。
念書は、一方が差し入れる約束
念書は、当事者の一方だけが署名して相手に渡す書面です。「期日までに支払います」「貸与された資料を返却します」のように、署名した側が約束や事実を認める形になります。双方の署名がないので、相手側の義務は念書からは生まれません。
印紙税法では、念書も「契約書」に含まれます。課税物件表の適用に関する通則5は、契約書とは契約証書、協定書、約定書その他名称のいかんを問わず、契約の成立や内容の変更などを証すべき文書をいい、契約の当事者の一方のみが作成する念書・請書なども含むとしています(e-Gov法令検索 印紙税法 別表第一)。
議事録は記録で、それだけでは合意の証拠として弱い
議事録は、打ち合わせで誰が何を話し、何が決まったかの記録です。記録者が一方的に作ることが多く、相手が内容を確認していなければ、後で「その決定には同意していない」と言われたときに、合意の証拠として弱くなります。
ただし、議事録は無意味ではありません。送った議事録に先方から「この内容で相違ありません」と返事をもらえば、合意を示す材料になります。どの決定を議事録で済ませ、どの決定を覚書にするかの分け方は、議事録やメールで済む合意と、覚書にすべき合意で説明します。議事録の書き方そのものは、議事録の書き方にまとめています。
受託・制作の案件で覚書を使う場面
受託・制作・コンサルの案件で覚書が一番役に立つのは、契約を結んだ後に条件が変わるときです。Webサイトの制作やシステムの開発では、作っている途中で「ページを1つ増やしたい」「公開日を延ばしたい」といった依頼が入ることが珍しくありません。こうした変更を口頭やチャットだけで進めると、納品や請求の段階で「どこまでが元の金額に含まれるか」で食い違いが起きます。
覚書を使う代表的な場面と、覚書に書く条項は次のとおりです。
| 場面 | 覚書にしておく理由 | 覚書で変える・決める条項 |
|---|---|---|
| 契約後に追加の依頼が入った(ページ・機能・資料の追加) | 追加分の金額と範囲を決めないと、元の金額でやる前提にされやすい | 業務の内容(成果物一覧)、委託料、納期 |
| 仕様が変わり、作り直しが出る | 作り直しの費用と期限を誰が負うかを決めておく | 業務の内容、委託料、納期、検収の基準 |
| 先方の都合で公開日・納期が延びる | 延びた期間の作業や支払時期の扱いを決める | 納期、支払期日 |
| 作業範囲を減らす(機能の削除・フェーズの分割) | 減額の幅と、すでに作った部分の扱いを決める | 業務の内容、委託料 |
| 秘密保持の範囲を広げる(新しい資料・アカウントの受け渡し) | 新しく受け取る情報が守秘の対象かを確かめる | 秘密情報の定義、返却・削除の方法 |
| 担当窓口や定例の頻度を変える | 連絡の行き違いを防ぐ | 連絡窓口、報告の方法・頻度 |
| 本契約の前に着手する(先行作業) | 契約前の作業の費用と、契約が結ばれなかったときの扱いを決める | 先行作業の範囲、費用、本契約への引き継ぎ |
追加の依頼をどこから別料金にするかは、覚書を作る前に決めておくべきことです。元の範囲と追加の線引きのしかたは、スコープクリープとはで扱っています。範囲を最初に文書で決める方法は、SOW(作業範囲記述書)とはが参考になります。
再委託の仕事では、発注者の側に明示の義務がある
自社が元請けから仕事を受ける再委託の取引で、取適法(中小受託取引適正化法。旧下請法)の対象になる場合は、発注者である委託事業者の側に、発注の内容を書面か電磁的方法で示す義務(4条明示)があります。公正取引委員会のQ&Aは、発注後に当初の発注数量を増やすことは給付内容の変更ではなく増量分の新たな発注と認められ、改めて4条明示が必要だとしています(Q125)。
また、情報成果物の作成のように打ち合わせをしながら内容を確定していく取引について、個々の作業指示をすべて記録する必要はないものの、少なくとも代金の設定時には想定していないような新たな費用が受託側に生じる変更は、その旨を記録して保存しなければならないとしています(Q70。公正取引委員会 よくある質問コーナー(取適法))。
受託側から見ると、追加や変更の依頼が来たら、覚書を自分から用意するか、発注者に変更の内容を書面やメールで示してもらうよう頼むのが確実です。取引が取適法の対象かどうかや、届いた発注書で確かめる項目は、注文請書とはの取適法の章で説明しています。
覚書の書き方|記載項目と変更覚書の記入例
覚書の書き方は、契約書とほとんど同じです。ただし、変更覚書では「原契約の特定」と「変更前と変更後」を必ず書く点が、新しく契約書を作るときと違います。
覚書に書く項目
| 項目 | 書く内容 | 書き忘れたときに起きること |
|---|---|---|
| 表題 | 「業務委託契約の変更に関する覚書」など、何の覚書か分かる表題 | 複数の覚書が並んだときに区別できない |
| 当事者 | 会社名(正式名称)。原契約と同じ「甲」「乙」の呼び方を使う | 当事者の取り違え、呼び方のずれ |
| 原契約の特定 | 原契約の表題・締結日・契約番号 | どの契約の変更か分からない。印紙の記載金額も増える |
| 変更する条項と内容 | 条項番号、変更前の文言と変更後の文言 | 何がどう変わったのか後から読めない |
| 効力発生日 | いつから変更後の内容を適用するか | 変更前の作業に新しい単価を当てるかで揉める |
| 原契約との関係 | 「本覚書に定めのない事項は原契約のとおりとする」 | 覚書に書いていない条項が無効になったように読める |
| 作成通数と保管 | 「本覚書を2通作成し、甲乙各1通を保有する」など | 誰が原本を持っているか分からない |
| 日付・署名・押印 | 締結日と、権限のある人の署名または記名押印 | 効力の始まりがあいまいになる。権限のない人の署名は争いになる |
「変更前」を書くのは、後から読んだ人が原契約を横に置かなくても変化が分かるようにするためです。条項の一部だけを変えるなら「第4条中『300万円』を『350万円』に改める」のように、改める語句を書く形でもかまいません。
変更覚書の記入例|追加の依頼で金額と納期が変わる場合
Webサイトの制作を請け負った後に、問い合わせフォームの追加を頼まれ、金額と納期が変わる場合の記入例です。会社名・日付・金額は説明のための架空のもので、実在の企業や取引のものではありません。
業務委託契約の変更に関する覚書
株式会社〇〇(以下「甲」という。)と株式会社△△(以下「乙」という。)は、
甲乙間で2026年9月1日に締結した「コーポレートサイト制作業務委託契約書」
(契約番号:2026-0901-01。以下「原契約」という。)について、
次のとおり変更することに合意する。
第1条(業務の内容の変更)
原契約別紙1「成果物一覧」に、次の成果物を追加する。
・問い合わせフォーム(入力画面・確認画面・完了画面、
送信内容を甲の指定するメールアドレスに通知する機能を含む)
第2条(委託料の変更)
原契約第4条に定める委託料を、50万円(消費税別)増額する。
これにより、変更後の委託料は350万円(消費税別)とする。
第3条(納期の変更)
原契約第5条に定める納期「2026年12月25日」を「2027年1月22日」に改める。
第4条(効力発生日)
本覚書は、2026年11月10日から効力を生じる。
第5条(原契約との関係)
本覚書に定めのない事項は、原契約の定めるところによる。
本覚書締結の証として本書2通を作成し、甲乙記名押印のうえ、各1通を保有する。
2026年11月10日
甲 東京都〇〇区〇〇1-2-3
株式会社〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇 印
乙 東京都△△区△△4-5-6
株式会社△△ 代表取締役 △△ △△ 印
この記入例は、原契約を表題・締結日・契約番号で特定し、増える金額(50万円)を書いているので、紙で交わす場合の記載金額は増える分の50万円で、印紙は200円です(理由は次の章で説明します)。金額は「消費税別」の税抜で書いているため、50万円で判定します。消費税額も書く場合の考え方は、次の章の「消費税の書き方」で説明します。
書くときに気をつけたいのは、次の3点です。
- 追加する成果物は、範囲の境目まで書く:「問い合わせフォーム」だけだと、自動返信メールや管理画面が含まれるかで揉めます。含むもの・含まないものを書きます
- 検収の期間や基準が変わるなら、それも書く:納期を延ばしても、検収の条項を変えなければ原契約のとおりになります。追加の成果物だけ別の基準にするなら明記します
- 支払の時期を変えるなら、別の条で書く:委託料の額だけを変え、支払期日を書かなければ、原契約の支払条件がそのまま当てはまります
検収の期間や基準の決め方は、検収とはで扱っています。
印紙の要らない覚書の記入例|窓口と報告の頻度を変える場合
金額や納期に触れず、連絡の窓口や報告の頻度だけを変える覚書の記入例です。こちらも架空の例です。
業務委託契約に係る連絡方法の変更に関する覚書
株式会社〇〇(以下「甲」という。)と株式会社△△(以下「乙」という。)は、
甲乙間で2026年9月1日に締結した「コーポレートサイト制作業務委託契約書」
(契約番号:2026-0901-01。以下「原契約」という。)第9条に定める
連絡窓口および進捗の報告について、次のとおり変更することに合意する。
第1条(連絡窓口)
甲の連絡窓口を、マーケティング部 〇〇 〇〇から、広報部 □□ □□に改める。
第2条(進捗の報告)
乙は、原契約第9条第2項に定める進捗の報告を、隔週から毎週に改めて行う。
報告は、甲乙が共有する案件の共有ページへの掲載により行う。
第3条(効力発生日)
本覚書は、2026年11月10日から効力を生じる。
第4条(原契約との関係)
本覚書に定めのない事項は、原契約の定めるところによる。
(以下、作成通数・日付・記名押印は前の例と同じ)
連絡窓口や報告の頻度は、印紙税の「重要な事項」に当たらないため、この覚書は課税文書に当たらないと考えられます(次の章の別表第2を参照)。ただし、報告の頻度を増やすことで作業や費用が増え、委託料も変えるなら、重要な事項の変更を含む覚書になります。
覚書に収入印紙は要るか|変更の中身と金額で決まる
紙の覚書に収入印紙が要るかは、元の契約の種類と、覚書で何を変えるかで決まります。受託・制作でよくある請負と準委任の契約に絞って、判定の流れを図にすると次のとおりです。
覚書も「契約書」に含まれる
印紙税法でいう「契約書」は、表題を問いません。前の章で見たとおり、課税物件表の通則5は、契約証書・協定書・約定書その他名称のいかんを問わず、契約の成立や内容の変更などを証すべき文書を契約書としています(e-Gov法令検索 印紙税法)。
国税庁の印紙税法基本通達第12条も、契約書とは、契約当事者の間で、契約(予約を含む)の成立、更改、内容の変更・補充の事実を証明する目的で作られる文書をいい、課税事項のうちの1つの重要な事項を証明する目的で作られる文書でも契約書に当たる、としています(国税庁 印紙税法基本通達 第4節 契約書の取扱い)。覚書という表題でも、契約の内容を変える書面なら、印紙税の判定の対象になります。
変更覚書は「重要な事項」を変えるかで決まる
同じ通達の第17条は、既にある契約(原契約)の同一性を失わせずに内容を変えることを「契約の内容の変更」とし、原契約が課税物件表の1つの号だけに当たる場合に、その重要な事項を変える契約書は原契約と同じ号になる、と定めています。そして、重要な事項以外の事項を変えるものは課税文書に該当しない、としています(同 第17条第2項)。原契約で欠けていた事項を後から決める覚書(補充契約書)も、第18条で同じように扱われます。
請負に関する契約書(第2号文書)の「重要な事項」は、通達の別表第2で、おおむね次の10項目(それぞれと密接に関連する事項を含む)とされています(国税庁 印紙税法基本通達 別表第2 重要な事項の一覧表)。
- 請負の内容(方法を含む)
- 請負の期日または期限
- 契約金額
- 取扱数量
- 単価
- 契約金額の支払方法または支払期日
- 割戻金等の計算方法または支払方法
- 契約期間
- 契約に付される停止条件または解除条件
- 債務不履行の場合の損害賠償の方法
受託・制作の変更覚書に当てはめると、成果物の追加や仕様の変更は「請負の内容」、納期の変更は「請負の期日または期限」、金額の変更は「契約金額」、支払時期の変更は「支払方法または支払期日」に当たります。追加の依頼で書く覚書は、ほとんどが重要な事項の変更です。一方で、連絡窓口や報告の頻度だけを変える覚書は、この一覧にないため課税文書に当たらないと考えられます。
金額を変える覚書の記載金額
第2号文書の税額は、覚書に書かれた金額(記載金額)で決まります。金額を変える覚書の記載金額は、通達の第30条で次のように決められています(国税庁 印紙税法基本通達 第5節 記載金額)。
- 原契約が作られていることが明らかな場合:覚書に原契約の名称・文書番号・契約年月日など、原契約を特定できる事項が書いてあるか、原契約と覚書が一体で保管されているなどの場合は、金額を増やす覚書なら増える金額が記載金額になります。金額を減らす覚書は、記載金額のないものになります(第30条第2項)
- それ以外の場合:変更後の金額が書いてあれば(当初の金額と変更の金額から計算できる場合を含む)変更後の金額が、変更の金額だけが書いてあれば変更の金額が、記載金額になります(第30条第1項)
第30条第2項の注は、原契約の名称などを書いていても、原契約が実際には作られていない場合は第1項が適用されるとしています。口頭やメールで始まった仕事に、後から「変更覚書」だけを作る場合は注意してください。
記入例の数字で計算すると、次のようになります。税額は、国税庁の印紙税額の一覧表で、記載金額1万円以上100万円以下が200円、300万円を超え500万円以下が2,000円、契約金額の記載のないものが200円です(国税庁 No.7140 印紙税額の一覧表(その1)。令和8年4月1日現在法令等)。
| 覚書の書き方(原契約は300万円の制作の請負) | 記載金額 | 印紙税額 |
|---|---|---|
| 原契約を特定し、「50万円増額し、変更後は350万円とする」 | 50万円(増える分) | 200円 |
| 原契約を特定せず、「委託料を350万円とする」 | 350万円(変更後の金額) | 2,000円 |
| 原契約を特定し、「30万円減額し、270万円とする」 | 記載金額なし | 200円 |
| 納期だけを変える(金額に触れない) | 記載金額なし | 200円 |
| 連絡窓口と報告の頻度だけを変える | ― | 課税文書に当たらない |
国税庁の印紙税額一覧表は、第2号文書の例に「請負金額変更契約書」を挙げています(同ページ)。原契約を特定しないだけで税額が10倍になる場合があるので、変更覚書には必ず原契約の表題・締結日・契約番号を書いておきます。
金額の内訳だけを入れ替える覚書にも注意が要ります。通達の第31条は、総額は変えずに同じ号の中の内訳金額だけを変える覚書について、その内訳金額は記載金額に当たらないものの、記載金額のない契約書として課税になる、としています(同 第5節)。デザイン費と実装費の配分だけを変える覚書でも、紙で交わせば200円の印紙が要る、ということです。
消費税の書き方と、税抜の金額
覚書の金額は、税抜の金額と消費税額を分けて書くのがおすすめです。国税庁は、消費税の課税事業者が作る第1号文書・第2号文書・第17号文書で、消費税額等が区分して書かれている場合や、税込価格と税抜価格の両方が書かれていて消費税額等が明らかな場合は、その消費税額等を記載金額に含めないとしています。免税事業者の場合は、消費税額等に相当する金額も記載金額に含まれます(国税庁 No.7124 消費税額等が区分記載された契約書等の記載金額)。
準委任の契約を変える覚書
コンサルティングや運用の支援など、作業の遂行を約束する委任・準委任の契約は、印紙税の課税文書に当たらないのが原則です。国税庁は、誤って納付した印紙税の還付の説明で、委任契約書を課税文書に該当しない文書の例に挙げています(国税庁 No.7130 誤って納付した印紙税の還付)。その変更を定める覚書も、原則として課税されません。
ただし、覚書で「調査報告書を完成させて納める」のように成果物の完成を約束する内容を加えると、その部分は請負として判定されることがあります。原契約が準委任でも、覚書で何を約束したかで判定が変わる点に注意してください。請負か準委任かの見分け方と、仕事の種類ごとの目安は、注文請書とはの印紙の章に表でまとめています。
PDFや電子契約で交わす覚書
紙の覚書を相手に渡さず、PDFや電子契約サービスで交わすだけなら、印紙は要らないと考えられています。根拠の1つが、福岡国税局の文書回答です。福岡国税局は2008年(平成20年)10月24日、請負契約の成立を証する注文請書について、現物を交付すれば課税文書の作成になるが、現物の交付に替えてPDFファイルなどに変換して電子メールで送信したときは課税文書を作成したことにはならない、という照会者の見解に対し、照会の事実関係を前提とする限り差し支えないと回答しています(福岡国税局 文書回答事例)。
この回答は注文請書についてのもので、照会の事実関係を前提にした見解です。覚書に当てはめるときは、次の点を守ってください。
- 紙の現物を後から渡さない:同じ照会文は、電子メールで送った後に現物を別に持参するなどして交付した場合は、課税文書の作成に当たるとしています。「念のため紙でも1通」は、その紙に印紙税がかかります
- 印刷して押印したものを郵送しない:先方の社内規程で紙の原本を求められたら、紙の覚書になります。その場合は前の判定に戻ります
- 電子のまま保存する:電子メールや電子契約サービスで受け渡した覚書は、電子帳簿保存法の電子取引のデータとして、電子のまま保存する必要があります。保存の要件は、注文請書の記事の保存の章で国税庁の一問一答とあわせて説明しています
印紙を貼り忘れたとき
紙の覚書に必要な印紙を貼らなかった場合は、本来の印紙税額の3倍に相当する過怠税がかかります。税務調査で過怠税の決定があることを予知する前に、「印紙税不納付事実申出書」で自分から申し出れば、1.1倍に軽減されます。貼った印紙に消印しなかった場合は、その印紙の額面に相当する過怠税がかかり、過怠税は法人税の損金にも所得税の必要経費にも算入できません(国税庁 No.7131 印紙税を納めなかったとき)。
反対に、要らない印紙を貼った場合や多く貼った場合は、税務署に申請すると還付を受けられる場合があります(国税庁 No.7130)。判断に迷う覚書は、作る前に税務署や税理士に確かめてください。
議事録やメールで済む合意と、覚書にすべき合意
打ち合わせで決まったことを、全部覚書にする必要はありません。覚書にすべきなのは、後で「言った・言わない」になったときに、お金・期限・責任の範囲で損をする合意です。進め方の細かな決定は、議事録やメールで残し、相手の確認をもらえば足ります。
| 合意の内容 | 残し方の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 金額が変わる(追加・減額・単価の変更) | 覚書 | 請求の根拠になり、食い違うと損失が出る |
| 納期・公開日が変わる | 覚書 | 遅れの責任と、支払時期に影響する |
| 成果物の範囲が変わる(追加・削除) | 覚書 | 検収で「これは含まれていたか」の争いになる |
| 支払条件・検収の基準や期間が変わる | 覚書 | 原契約の条項を書き換えることになる |
| 秘密保持の範囲・再委託の可否が変わる | 覚書 | 責任の範囲が変わる |
| デザインの方向・画面の細部・文言の修正 | 議事録やメールで、先方の確認をもらう | 原契約の範囲内の作業の進め方の決定 |
| 定例の日時・次回までの宿題 | 議事録 | 進め方の記録で足りる |
| 担当窓口・報告の方法 | 議事録やメール。原契約に条項があるなら覚書 | 原契約に定めがあるかで変わる |
議事録やメールで残す場合も、相手の確認をもらう形にしておくと、合意の証拠として使いやすくなります。決定事項を「いつ・誰が・何を決めたか」で書き、送った後に先方から確認の返事をもらうところまでを1セットにします。打ち合わせの決定を食い違わせない方法は、「言った言わない」をなくす方法で扱っています。
迷ったときは、「この決定で、見積もりや請求の金額、納期、成果物の一覧のどれかが変わるか」を基準にしてください。どれかが変わるなら覚書、どれも変わらないなら議事録で十分です。
覚書でよくある失敗と防ぎ方
覚書は短い書面なので、作るのは簡単です。その分、書き漏れがあると、原契約とのずれが後から見つかります。受託・制作の案件で起きやすい失敗と、防ぎ方をまとめます。
原契約を特定していない
「〇〇の件について、次のとおり合意する」とだけ書き、どの契約の変更かが書かれていない覚書は、原契約との関係が読めません。印紙税でも、原契約を特定していない金額の変更は変更後の金額が記載金額になるため、税額が増えることがあります。原契約の表題・締結日・契約番号を、前文に必ず書きます。
変更前と変更後が書いていない
「納期を変更する」「委託料を見直す」とだけ書き、変更後の内容が書かれていないと、覚書を交わしたのに何も決まっていない状態になります。条項番号と、変更前・変更後の文言をそろえて書きます。
原契約のほかの条項とつながっていない
納期を延ばしたのに、検収の期間や支払期日の条項がそのままで、支払いだけが先に来てしまう、という食い違いがよく起きます。覚書を作るときは、変える条項に関係するほかの条項(検収・支払・遅延の扱いなど)を、原契約で読み直してから書きます。
署名する人に権限がない
現場の担当者どうしで覚書に署名してしまい、後から「会社として認めていない」と言われることがあります。金額や納期を変える覚書は、原契約に署名した人か、社内の規程で権限を与えられた人が署名するようにします。
日付や効力発生日が空欄
締結日を空けたまま回覧し、日付がないまま保管されている覚書は、いつから変更が有効なのかを争う原因になります。締結日と効力発生日を分けて書き、変更前の作業にどちらの条件を当てるかを決めておきます。
覚書が何枚も重なり、最新の約束が分からない
仕様の変更が続く案件では、変更覚書が第3回、第4回と重なります。そのたびに原契約と覚書を全部読み直さないと、最新の金額や納期が分からなくなります。覚書の番号・締結日・変えた条項・変更後の内容を1枚の一覧にして、案件の資料と一緒に置いておくと、検収や請求の段階で迷いません。
覚書と議事録を、顧客と同じ場所に残す
覚書は、契約後に変わった約束を固定する書面です。ただ、受託・制作の仕事では、覚書を作るまでに、打ち合わせでの相談、見積もりの出し直し、先方の社内確認が続きます。覚書の原本だけが手元に残り、なぜその変更になったのかの経緯が別々の場所に散らばると、次の変更のときに同じ説明を繰り返すことになります。
原契約・覚書・変更の一覧と、変更を決めた打ち合わせの議事録を、案件ごとに顧客と同じ場所に置いておくと、双方が同じものを見て「今の約束」を確かめられます。顧客と同じものを見ながら仕事を進める考え方は、クライアントワークとはで整理しています。
覚書と議事録を、顧客と同じRoomに残す
Terasuは、ページ・資料・議事録・タスクを案件ごとのRoomに集める共有ワークスペースです。原契約や覚書、変更の一覧を同じRoomに置けば、先方が資料を閲覧したかどうかが分かります。議事録を貼ると、やることの候補が根拠になった発言と一緒に出ます。クレジットカード不要で、まず1つの案件Roomから試せます。
無料で案件Roomを作るよくある質問(FAQ)
覚書とは何ですか?
当事者が合意した内容を、後から確かめられるように書面にしたものです。読み方は「おぼえがき」です。ビジネスでは、結んだ契約の一部を変えるときや、細目を決めるとき、本契約の前に方向を確かめるときに使われます。
覚書に法的な効力はありますか?
あります。民法522条は、契約は申込みと承諾で成立し、書面の方式を原則として問わないと定めています。合意の内容が書かれ、双方が署名や記名押印をした覚書は、表題が覚書でも契約書と同じように当事者を拘束します。
覚書と契約書の違いは何ですか?
法律上の効力に違いはありません。実務では、取引の全体を決める書面を契約書、その一部を変えたり補ったりする書面を覚書と呼び分けることが多くなっています。覚書は原契約を前提にするので、どの契約の変更かを必ず書きます。
覚書と念書の違いは何ですか?
覚書は当事者の双方が署名するのが一般的で、双方の合意を示します。念書は当事者の一方だけが署名して相手に差し入れ、署名した側の約束を示します。印紙税法では、念書も契約書に含まれます。
覚書に収入印紙は必要ですか?
中身によります。請負の契約の内容・期日・金額・支払方法などの重要な事項を変える覚書を紙で交わすと、第2号文書として課税されます。窓口の変更など重要な事項以外だけを変える覚書や、準委任だけの契約の覚書は、原則として課税されません。
金額を増やす覚書の印紙はいくらですか?
原契約を表題・締結日・契約番号などで特定していれば、増える金額が記載金額です。50万円の増額なら200円です。原契約を特定せず変更後の金額だけを書くと、その金額で判定され、350万円なら2,000円になります。
電子契約やPDFで交わす覚書にも印紙は要りますか?
紙の現物を渡さず、電子データで交わすだけなら、課税文書の作成に当たらないとする福岡国税局の文書回答があります。ただし、後から紙の原本も渡すと、その紙に印紙税がかかります。
議事録があれば覚書は要りませんか?
金額・納期・成果物の範囲が変わる合意は、覚書にしておくのが安全です。議事録は記録者が一方的に作ることが多く、相手の確認がないと合意の証拠として弱くなります。進め方の決定は議事録で足ります。
覚書の作成通数は何通ですか?
当事者の数だけ作り、各自が1通ずつ持つのが一般的です。2社なら2通です。紙で交わす場合は、印紙税の課税文書に当たる覚書なら、各当事者が持つそれぞれの1通が課税対象になります。
まとめ
- 覚書は、当事者が合意した内容を残す書面で、表題が覚書でも、合意の内容と双方の署名があれば契約書と同じように当事者を拘束します。
- 契約書・覚書・合意書の違いは使う場面の慣習で、念書は一方が差し入れる約束、議事録は相手の確認がないと弱い記録です。
- 受託・制作では、追加の依頼・仕様の変更・金額や納期の変更を覚書にします。原契約を特定し、変更前と変更後、効力発生日、「その他は原契約のとおり」を書きます。
- 印紙は中身で決まります。請負の重要な事項を変える紙の覚書は第2号文書で、原契約を特定していれば金額の増える分が記載金額です。窓口の変更などは課税文書に当たりません。PDFや電子契約で交わすだけなら、課税文書の作成に当たらないとする国税局の回答があります。
- お金・期限・範囲が変わる合意は覚書に、進め方の決定は議事録やメールに残し、どちらも相手の確認をもらいます。
本記事の情報について: 法令の条文(民法・印紙税法)はe-Gov法令検索、印紙税の取扱いは国税庁の印紙税法基本通達(第12条・第17条・第18条・第30条・第31条・別表第2)とタックスアンサー(No.7100・No.7124・No.7130・No.7131・No.7140。令和8年4月1日現在法令等)および福岡国税局の文書回答事例、取適法の内容は公正取引委員会の「よくある質問コーナー(取適法)」で、2026年11月5日に確認しています。覚書の記入例は Terasu 編集部が作成したひな形で、実在の企業や取引のものではありません。個別の覚書の印紙税の扱いは税務署や税理士に、契約の内容は法務担当者や弁護士に確認してください。


